2020/01/28
ロックフェラー財団100RCに見る街づくりのポイント
【ショック要因】
・地震と液状化
・都市洪水
・山火事
・外的な経済危機
カリフォルニア地方は太平洋プレートの東側の端に位置していることもあり、これまで多くの地震に見舞われてきました。今後30年以内に、マグニチュード6.7かそれ以上の地震が発生する確率は30%と予測されています。オークランドの2万2000のアパートメントが地震および液状化に耐えられない構造であると分析されています。また、異常気象の影響で洪水の発生確率も高まっています。干ばつが続くことにより山火事の発生も懸念され、3469軒の住居が被害を受けると予想されています。
レジリエント戦略3つのテーマ、10のゴールと40のアクション
貧富の差やコミュニティ格差、そして自然災害の脅威にさらされているオークランドのレジリエント戦略は、3つの大きなテーマに基づいて10つのゴールと付随するアクションで構成されています。3つのテーマは、①信頼と責任に基づく行政組織の構築、②地域に根差した繁栄・成長、そして③活気がありつながるオークランド――です。
①信頼と責任に基づく行政組織の構築
まずはコミュニティエンゲージメントを高めることを掲げています。具体的には、エンゲージメントの度合いを評価するための尺度の作成をアクションに定めています。続いて、オープンな協働の実践をするためのシビックデザインラボや、デジタルサービスセンターの立ち上げを通じた、住民ニーズへのアプローチを目指します。地域外の組織とのパートナーシップや協働プログラムを通じた地域レジリエンスの向上にも力を入れる、としています。
市の政策決定や意思決定をよりデータに基づいたものにシフトしていくこと、例えば住宅供給施策に関するデジタルサービスに対してKPIを設定するなど、意思決定や評価のプロセスを見える化しようとしています。
さらには、他の多くの都市と同じように、若年層との協働も重要アクションとして定めています。市長との対話を通じたレジリエントインターンシップの展開や、アートやストーリーテリング(物語の語り)の手法を用いたレジリエンス教育のプログラムを開発することにしています。
②地域に根差した繁栄・成長
ここでいう地域とは、物理的な場所のほか、地域に暮らす人々の“多様なバックグラウンド”を受容するという意味合いも含まれています。オークランドはサンフランシスコという大都市圏と接していますが、域内の経済活動は従業員20名以下の小規模事業者が支えています。こうした小規模事業者はオフィス賃料の上昇や大都市圏との賃金格差に悩まされています。
幼少期から将来が見込まれる子どもたちに対して、将来の教育費用のための積立口座を作るプログラムを2016年から始めています。特にマイノリティコミュニティの住民を対象として、教育機会へのアクセスの是正を狙っています。加えて、教育が終了した後の就労を、フューチャーセンターという組織を立ち上げることで支援しようとしています。財政支援や奨学金、企業インターンシップの機会を提供することを目的としています。
マイノリティコミュニティへのサポートの充実だけではなく、地域内の“共助”を強化するプログラムにも取り組んでいます。災害時に機能するコミュニティとしての役割も期待しています。具体的には、地域イベントを通じた災害弱者とのつながりの強化、災害時に最低限必要なキットを自分たちで集めてみるワークショップを開催します。
需要に追いついていない住宅供給についても、空き地や空き家の有効活用によりギャップを埋めていく、としています。
③活気があり、地域の主体とさらにつながるオークランド
ここで重点アクションとなっているのは気候変動への対応です。加えて、老朽化するインフラについて、今後見込まれる改修費用を従来通りの予算の組み立てにより負担することは非現実的であるとして、新しい投資の形を模索しています。地域住民や地域の事業者との連携により、予算投下をどの程度レバレッジできるのか、パイロット事業を行う予定です。レジリエント戦略の軸にはなっていませんが、インフラストラクチャーの未来を考える際は、可能な限り再生エネルギーで回していくこと、よりグリーンな環境に近づけていくことを目指しています。
気候変動への対応としての具体的なアクションについては、次回詳細をご紹介したいと思います。
自然災害への身近な脅威、マイノリティコミュニティのインクルージョンが課題
オークランドの抱えるストレス要因とショック要因、さらにこれらに対応するためのレジリエント戦略は、貧富の格差、マイノリティコミュニティとの融合、さらには自然災害の脅威への対応、の3点に集約されています。市が抱える課題の記述には統計データが多く用いられ、行政が今後実施しようとするアクションプランには具体性があります。アメリカらしい戦略の作り方だと感じました。
一方で、需要が増加している住宅やオフィススペースの確保には物理的な限界もあるため、オークランド外の近隣地域との連携が欠かせません。オークランドに隣接するバークレーには、カリフォルニア大学バークレー校があります。この大学の学生と協働して、オークランドの域外の地域がどのような課題を抱えているのかを住民インタビューから分析する取り組みも行っており、興味深い結果となっています。
次回、オークランドが掲げる自然災害への対応アクションと、周辺地域の課題分析についてご紹介したいと思います。

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