会社と「つながらない権利」についての議論が活発になっています。厚生労働省「労働基準関係法制研究会」は2025年に報告書を公表し、労働からの解放の一環として、ガイドライン策定などの積極的な方策の検討が必要と提言し、国会でも導入が議論されました。今回は「つながらない権利」を取り上げます。
■【事例】:GW明け、出社しない新人
大型連休が明けた5月。オフィスには、新年度特有の高揚感がようやく一段落し、いつもの日常が戻ってきました。情報システム部でマネージャーを務めるAさんも、そんな空気の中で連休明けの月曜日を迎えていました。出社してPCを立ち上げると、Aさんの受信箱には一通のメールが届いていました。
「体調不良のため、本日より数日間お休みをいただきます。なお、休暇期間中の業務連絡は控えていただけますと幸いです」
送り主は、4月に入社したばかりの新人社員、Bさんでした。
Bさんは、この1か月、誰の目から見ても「よくやっている新人」でした。業務時間外であってもチャットの通知に素早く反応し、休日の軽い確認にも丁寧に返信していました。その姿勢に、Aさん自身も「最近の若手にしてはガッツがある」と感じていたのです。
しかし、その頑張りと並行してBさんの心は静かに削られてしまっていたようです。折しも世間では、勤務時間外の連絡制限を求める「つながらない権利」の法制化議論が加速しています 。Aさんの会社でも、まだ義務化はされていないものの、先行してガイドラインの策定が進んでいた矢先のことでした。
この法制化では、勤務時間外の連絡制限や、それを促す体制整備が企業に義務付けられる予定です。勤務時間外の連絡を抑制し、私生活の平穏を確保することが、企業の努力義務ではなく「実質的な管理責任」として問われはじめるのです。事情を聞きつけた部長がAさんにこう声をかけてきました。
「Bさんの件だけど、休み中は一切連絡してくれるなって、正直やり過ぎじゃないのか。急ぎの確認が必要な場合だってあるし、そのことで仕事が止まるのは現実的じゃない。だいたいこれまでは、本人も自分から返していたでしょう」
Aさんは言葉に詰まりました。確かに、即時の返信を強制した覚えはありませんし、命令もしていません。けれど、Bさんのデスクに残された静まり返ったPCを見たとき、Aさんは何とも言えない気持ちになってしまいました。
「自発的」という言葉の下で、Bさんの心はどれほど削られていたのか。そして、この事態を招いた責任は、まだ見ぬ法律のせいなのか、それとも自分たちの無意識の甘えにあるのか。Aさんは、Bさんの今後のことも含め、新しい時代の波にどのように対処したら良いのかがわかりません。
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