2016/06/14
誌面情報 vol54
一般社団法人日本防災教育訓練センター代表理事 サニー神谷氏
パリで発生した同時多発テロは、日本企業にも衝撃を与えた。フランス国内に支店やグループ会社を持つ企業は、現地従業員らの安否確認を行う一方、日本から海外への渡航を禁止とした企業も少なくない。「今後、海外への渡航者や駐在者らに対して、どのような安全対策をしていけばいいのか」が危機管理担当者の最大の悩みだろう。パリ同時多発テロ事件発生後、ただちに現地に取材に入った一般社団法人日本防災教育訓練センター代表理事で国際消防&防災ジャーナリストのサニー神谷氏に聞いた。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年3月25日号(Vol.54)掲載の記事を、Web記事として再掲したものです。(2016年6月14日)
2015年11月13日金曜日、週末を過ごす客でにぎわうフランスの首都パリ市内外で、午後9時20分から53分の間に自爆テロや銃撃による殺戮が発生し、少なくとも130人が死亡、350人以上が負傷し、同国で戦後最悪のテロとなった。
11月16日、フランスのオランド(FrancoisHollande)大統領は、「今回のテロは、過激派組織IS=イスラミックステートによる不特定多数を殺傷する組織的な行為で、シリアで計画、ベルギーで準備、フランスで実行された」との見解を示した。
テロは、週末の夜の繁華街という都市の脆弱なところを狙い、不特定多数の人々に対して乱射する極めて凄惨なものであった。フランスの主流メディアは、「実行犯の大半が持参の自動小銃の弾を撃ち尽くしたのち、身につけた榴弾ベルトにより自爆死し、その爆弾に内包された金属球や金属の釘やねじが爆発で放射状に勢いよく飛び散り、半径約50mに居る人々を殺傷した」と報じた。
一方、世界中のジャーナリストが集まる教育研究サイト「Academia」では、今回のテロに関わったテロリストたちの行動の未熟さや、ターゲットの脈絡のなさ、イスラム国との関係の浅さなどから、実際はイスラム国や敵対するアルカイダなどのテロ行動に感化された過激な思想青年グループによる集団殺人事件に過ぎないのでは?との意見も多く投稿されている。
確かに、犯行内容を時系列で見ていくと、若きテロリストたちは、ほぼ無計画と言っていいほど思いつきの素人犯行だったのでは?と疑うことができる。理由の1つは、彼らがテロに使用した自動小銃AK47は、不発や誤作動が多く、おそらく闇市で買ったような中古銃で、メンテナンスやオーバーホール、動作確認なども行われていなかったと見られている。
また、自爆ベストも手作りのため、乱射している間に自動小銃の振動で配線が切れてしまい、起爆スイッチを入れても爆発せず、その場で配線をつなぎ直しても自爆できずに慌てていたという目撃証言や、榴弾ベルトにテープでぐるぐる巻きにされたねじや釘がボロボロとこぼれていたという話もあるほど、武器に対してはお粗末な準備&知識だったようだ。
現地日本人の声
テロ翌日、パリ市内はすべての学校、大学、図書館、娯楽施設が入場禁止、観光ツアーなどはキャンセルされ、地下鉄も数駅が閉鎖された。
パリ市役所は市民らに対し、必要最低限、表には出ないよう呼びかけたが、「テロに屈しない」と息巻く市民たちは、わざとレストランの表に並ぶ席に座って、いつものように食事を取った。
私は、パリに滞在した2015年12月2日から7日までの間、パリ市消防旅団(消防局)やSAMU( 緊急医療援助組織)、SMUR( 救急機動組織)、APHP( パリ公立病院連合)にテロ対応の取材を行い、また、パリ市内にある商社系日本企業の従業員、パリ大学客員教授など、現地在住の日本人計8人にインタビューを行った。
その中で、パリ9区在住44年の日本人男性Gさんの話によると、テロ当日の夜は、合計数百台にのぼると見られるパリ中の警察車両、消防車両、フランス軍などのさまざまな車両が一斉に走り出して、「戦争でも始まったのか」と思わせるほど、緊迫した状況だったという。サイレン音と緊急車両がすべて走り去った後は、薄気味悪いほど静寂な時間が流れ、過去にはない恐怖感を覚えたそうだ。
そして、テレビのニュースを見ると、どのチャンネルも見慣れた景色の中で起こった生々しいテロ現場が映し出されており、アルミシートにくるまれた血まみれの市民、赤く染まった手袋で次々に救急車へ傷病者を搬送する消防隊員、防弾ベストを着て2重3重の人垣を築きながらテロリストと抗戦する警察や軍隊の隊員、慣れない事態に対応を慌てるメディアのレポーターの姿などを見ると、「これからどうなるのだろう?いつ、事態が収束するのだろう?」と心配でテレビのリモコンを持った手が小刻みに震えたと語っていた。
この男性は、すぐにSNSで友人たちの安否確認を行ったところ、すでにたくさんのテロ情報や在住者ネットワークの安否確認ページなどが開設され、迅速な対応が取られていたという。
パリ11区在住の商社系民間企業の社員Nさんの話によると、2015年1月7日に起こったシャルリ・エブド襲撃事件の直後、パリにある日本国大使館から、「イスラム国やアルカイダが何度もパリを襲撃するという内容をさまざまなメディアを通じて宣戦布告していることから、各社において従業員に基本的なテロ対策を行うように」とアドバイスされていたそうである。
もちろん、会社としては危機管理対策として、邦人保護対策に基づき、大使館との連絡を密にし、一応のテロ情報更新とテロ行動に注意する心構えはあったが、まさか本当に起こるとは夢にも思わなかったと話していた。
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