進行リスク:エマージングリスクとは?

リスクマネジメントの新たな課題の一つとして、新興リスク(emerging risks:エマージングリスク)に対処することがある。増加する急速な環境変化、複雑化する環境に対応を迫られているからである。

新興リスクとは、現在は存在していない、または認識していないが、外部環境の変化などにより新たに出現したり変化したりするリスクのことをいう。従来予期していなかった新しいリスクというケースもあれば、従来予期していたものの、従前の予想をはるかに超える頻度や重大さに変化したリスクというケースもある。

予想外の事態に備える

例えばデジタル・トランスフォーメンションといった技術革新が従来のビジネスの在り方を変えようしていて、その変化スピードが加速している。こうした変化への対応不足が事業の継続性を危機に晒している。また、コロナ感染症の猛威やロシアのウクライナ侵攻など、従来はほとんど考えなくてもよかったリスクが突然、顕在化し、迅速に対応しなければならない。これらの事態が決して稀なイベントではないことが明らかになった現在、この課題は大きなものとなっている。将来の予想外の事態に備え、組織の戦略目標を確実に達成して、長期的に組織価値を維持、強化していかなければならないからである 。

評価は困難

新興リスクは、一般的には、従来にはなかった新たなリスクを指すだけでなく、予期できない、破壊的な影響をもたらしうる、急速に変化ないしは進化するリスクを意味する。ところが、こうしたリスクは、その影響の大きさが正確には把握できないものであったり、発生確率の予測が難しいものであったりすることも多い。そのため、新興リスクの評価には困難が伴う。

RIMSの調査によれば、新興リスクの影響を把握できるとする組織は27%しかなく、自組織のリスクとして位置づけ、それに対応できている組織は少ない。さらには、新興リスクをどの時間軸で把握するかに関しては、直近の1年間に生じるであろうリスクとする組織から、5年後までに幅を広げている組織まで、ばらつきがある。戦略計画の時間軸に沿って、何を新興リスクとして把握、評価、対応するかは、組織ごとに異なっているようである。その一方で、新興リスクを特定し、検討することは新たな事業機会の発見、組織成長目標の設定、環境変化における焦点の設定など、利点が多くあるとも受け止めている組織も多い。