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労働災害というと長時間労働による過労死などがすぐに思い浮かぶかと思います。しかし、セクハラが原因で精神疾患を発病した場合でも、労災として認定されることがあります。そこで、今回は、「セクハラによる精神障害と労災の関係」について、元刑事の社会保険労務士が解説します。

精神障害の労災認定要件

厚生労働省では、労働者に発病した精神障害が業務上として労災認定できるかを判断するために「心理的負荷による精神障害の認定基準」を定めています。以下の①②③の要件を満たす場合、労災として認定されます。

① 認定基準の対象となる精神障害を発病していること。
② 精神障害の発病前おおむね6カ月以内に「業務による強い心理的負荷」が認められること。
③ 業務以外の心理的負荷や個体側要因により精神障害を発病したとは認められないこと。

中でも、セクハラによる精神障害の認定にあたって問題となるのは、②の「業務による強い心理的負荷」があったか否かとなります。そこで、「業務による強い心理的負荷」が認められるかどうかの判断について見ていきます。

「業務による強い心理的負荷」が認められるかどうかの判断

発病前おおむね6カ月の間に起きた業務による出来事について、その内容や程度によって、被害者がどの程度の心理的負荷があったのかを「強」「中」「弱」の3段階で評価します。心理的負荷が「強」と評価される場合、認定要件②を満たすことになります。セクハラの場合は、この認定基準について、具体的に例示されています。

例えば、心理的負荷が「強」と評価される場合として、
・強姦や本人の意思を抑圧して行われたわいせつ行為などのセクハラを受けた場合
・胸や腰などへの身体接触を含むセクハラであって、継続して行われた場合
・胸や腰などへの身体接触を含むセクハラであって、行為は継続していないが、会社に相談しても適切な対応がなく改善されなかった、または会社へ相談などをした後に職場の人間関係が悪化した場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクハラであって、発言の中に人格を否定するようなものを含み、かつ継続してなされた場合
・身体接触のない性的な発言のみのセクハラあって、性的な発言が継続してなされ、かつ会社がセクハラがあると把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった場合
が挙げられます。

このように、セクハラに関して心理的負荷の程度を判断する際に考慮される基準として、身体接触の有無、行為の継続性などがありますが、中でも特徴的なのは、会社側の適切な対応があったのかどうなのかが問われるところにあります。

また、職場内で無自覚で日頃何気なく呼んでいる「〇〇ちゃん」などと言った呼称。実は、この発言は、心理的負荷は「弱」と評価されるとしています。心理的負荷「強」には該当しないため、認定要件②を満たしていないことになりますが、心理的負荷の強度が「弱」程度と評価される場合であっても、出来事の前後に恒常的な長時間外労働が認められる場合や、セクハラ以外の出来事が複数生じた場合などには、評価が「強」となることもあります。「〇〇ちゃん」と呼ぶくらい許容範囲なのではないかと思われる人も多いかもしれません。しかし、認定基準の中ではセクハラ行為の1つとして挙げられていますので注意が必要です。