第16回 米国で「神経データプライバシー立法」相次ぐ
個人のプライバシー保護に関する新たなリスク
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
2026/03/10
新 世界のリスクマネジメントの潮流
鈴木 英夫
慶應義塾大学経済学部卒業。民族系石油会社で、法務部門・ロンドン支店長代行・本社財務課長など(東京・ロンドン)。外資系製薬会社で広報室長・内部監査室長などを務め、危機管理広報・リスクマネジメントを担当(大阪)。現在は、GRC研究所代表・研究主幹、リスクマネジメント&コンプライアンス・コンサルタント(兵庫)。日本経営管理学会会員、危機管理システム研究学会会員。
ニューロテクノロジーは急速に進化し、SFの世界から実験室、そして実生活の消費者向けアプリケーションへと拡大している。ウェアラブル消費者向けデバイスや埋め込み型医療機器などの新技術により、企業は近い将来、神経データと呼ばれる新たな種類の非常に機密性の高い情報を収集することで、消費者の心に直接アクセスできるようになるかもしれない。
神経データとは、一般的に、人の神経系の活動を直接測定することで得られるあらゆる情報を指す。ニューロテクノロジーデバイスは、脳と神経系からの信号を直接測定するため、そのデータから個人の精神状態、感情、認知機能に関するリアルタイムの洞察が得られる可能性が高い。このデータの機密性は、情報を収集・処理、さらには保管する組織にとって、新たな法的および倫理的リスクをもたらす。神経データを取り巻く新たなリスクを積極的に管理するうえで、企業はこのデータがビジネスプロセスとどのように作用するかを理解する必要がある。さらに、神経データを取り巻く法的および規制環境も変化しており、少なくとも全米で9つの州がこのデータの収集と利用を規制する法律を制定または審議しており、個人のプライバシー保護に関する新たなリスクと義務が生じている。
神経データやニューロテクノロジーという概念は未来の話かと思うかもしれないが、こうした技術は既にヘルスケア市場や消費者市場に浸透しつつある。例えば、Museヘッドバンド、Emotiv*1) EPOC X、Neurable*2)のEEG対応ヘッドフォンなど、頭皮に装着した電極を通して神経データを測定するウェアラブル脳波(EEG)デバイス*3)は、消費者が容易に入手できる。これらのデバイスは、瞑想、健康状態の追跡、ゲーム、さらには職場の生産性モニタリングに神経データを活用することを可能にする。
*1)訳者注:Emotiv(エモティブ)は、脳波(EEG:Electroencephalography)技術を活用して、人間とマシンのインターフェース(BMI)を開発・販売する、世界的に有名なバイオインフォマティクス(生物情報科学)企業。
*2)訳者注:Neurable(ニューラブル)は、アメリカのボストンに拠点を置く、脳波(EEG)を活用したBCI(Brain-Computer Interface:脳コンピューターインターフェース)技術を開発するスタートアップ企業。
*3)訳者注:ウェアラブル脳波デバイスとは、病院で使われるような大型の装置ではなく、日常的に身につけられる形状(ヘッドセット、ヘッドバンド、イヤホン型など)に小型化された「脳活動をリアルタイムで測定する機器」のこと。EEGは Electroencephalogram(脳波図) の略称。脳の神経細胞(ニューロン)が活動する際に発生する微弱な電気信号を、頭皮に触れる電極で捉えるもの。
2025年12月、FDA*4)はFlow Neuroscienceヘッドセットの初の市販前承認を付与した。これは、うつ病性障害の治療を目的とした家庭用経頭蓋直流電流刺激(tDCS)デバイスである。tDCSデバイスは特定の脳領域に電流を流すため、科学者たちはうつ病、不安、気分の不安定さ、不眠症の緩和に利用できると考えている。
*4)訳者注:FDA(米国食品医薬品局)は、アメリカ保健福祉省(DHHS)に属する政府機関。食品、医薬品、医療機器、化粧品などの安全性や有効性を監督・規制し、アメリカ国民の健康を守る役割を担う。
さらに、イーロン・マスク氏のNeuralinkのような企業は現在、外科手術で埋め込む脳コンピューターインターフェース(BCI)の臨床試験を行っている。これは脳に直接装着し、思考によって生成される神経信号を通じてデジタル機器を制御できるようにするデバイスで、神経疾患や身体麻痺に苦しむ患者の支援につながる可能性がある。
たとえ神経技術を設計・販売していなくても、企業などの組織が他の方法で神経データとやり取りする可能性もある。医療従事者は、臨床モニタリングやケア用に設計された埋め込み型医療機器から神経データを処理する場合がある。テクノロジー企業は、神経データを生成・保存する消費者向けウェアラブル機器や医療機器向けのプラットフォームを開発・サポートする場合もある。マーケティング企業は、消費者の関心・関与、製品への反応を追跡するために神経データを活用することもある。組織が神経データに遭遇するあらゆるシナリオにおいて、潜在的な法的責任や規制リスクが伴うのだ。
新 世界のリスクマネジメントの潮流の他の記事
おすすめ記事
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/03/10
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/03/05
ネット風評被害を叩き企業の信頼を守る
ネット社会の「カイシャの病院」として企業の風評被害を治療・予防するソルナは昨年7月、代表交代をともなう事業承継を行いました。創業者の三澤和則氏が代表取締役を退任し、新たに安宅祐樹氏が就任。これまでのサービス価値をさらに高め、企業の信頼の基盤を保全していく構えです。新社長の安宅氏に事業承継の経緯と今後の展望を聞きました。
2026/03/02
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方