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ソルナ代表取締役 安宅祐樹氏

 

Profile-
【あだけ・ゆうき】

1989年生まれ、山口県出身。2011年慶応義塾大学卒業後、野村證券に入社、中小企業の事業承継支援に携わる。その後、米・バブソンカレッジでMBAを取得、20年からボストンコンサルティンググループで金融機関向けの営業支援などに尽力。24年サーチファンド「事業承継支援機構合同会社」設立、25年7月ソルナ代表取締役就任。


ネット社会の「カイシャの病院」として企業の風評被害を治療・予防するソルナ(東京都中央区)は昨年7月、代表交代をともなう事業承継を行った。創業者の三澤和則氏が代表取締役を退任して会長に就き、新たに安宅祐樹氏が社長に就任。これまでのサービス価値をさらに高め、潜在ニーズに応えて企業の信頼の基盤を保全、安心な経済活動と採用活動を支えていく構えだ。新社長の安宅氏に事業承継の経緯と今後の展望を聞いた。
※本記事は「月刊BCPリーダーズvol.70(2026年1月号)」に掲載されたものです。

――昨年7月、代表交代をともなう事業承継によってソルナの社長に就任されました。経緯を教えてください。
元々、会社を経営したいと思っていました。大学卒業後に起業する道もありましたが、当時お世話になっていた先輩から「新卒採用は人生で一度切りだから、いったん就職して社会の仕組みを勉強するのもいい」とアドバイスいただき、野村證券に入社したのです。

同社を選んだのは、できるだけ大勢の経営者に会いたかったから。証券会社の営業は中小企業の社長にコンタクトします。実際、多くの中小企業の事業承継支援に携わりました。自社株の贈与税を低く抑えるスキームや経営引き継ぎ後の社内体制整備のお手伝いです。

そのなかで、優秀な企業が後継者不在のためにM&Aで売られるのを何度も見た。特に地方は担い手が見つかりません。そのとき、そもそも自分は経営をやりたい、目の前には後継者がいないために泣く泣く会社を売っている経営者がいる、ならば自分が後を引き継げばWin-Winの関係が築ける、そう考えたわけです。

――その後、サーチファンドを行う会社として「事業承継支援機構」を設立、自らサーチャーとなって中小企業の事業承継支援を始められましたね。どういう枠組みなのですか?
企業同士が合併するM&Aは一般的に、将来の組織体制がどうなるのか、誰が代表になるのか、自社の社名が残るのかといったことが不透明なまま交渉が進みます。これに対しサーチファンドは、私自身がファンドの代表で、かつ、経営者を目指すサーチャーですから、合併後に私が代表に就くことを最初からコミットしているわけです。

つまりサーチファンドは、一般的なM&Aに比べ、お互いの顔が見える。会社のオーナーからすると、相手をよく知ったうえで経営を任せられるメリットがあります。任される側も同様で、その会社をそれこそパーソナルな部分まで知ったうえで引き継げます。

個性や相性はM&Aに重要です。私はソルナを選んだ、あるいはソルナから選ばれたわけですが、最後のあと押しは個性でした。というのも、先代の三澤和則も私も山口県出身、またソルナの設立年月日は私の誕生日で、さらにいえば、私はソルナの本社の近くに住んでいました。

こうしたつながりは、やはり不思議な縁を感じます。それに、三澤の指導が社員に行き届いていた。取締役をはじめ社員がとてもまじめで、成長したい、お客様に貢献したいという前向きな意欲にあふれていました。「この会社ならいっしょにやっていける」と確信したのです。

ですから、私にはソルナを買収したという意識はありません。いわば婿養子としてソルナに入れてもらい、代表権を引き継がせてもらったという感覚です。

風評被害対策の市場は急拡大

――なるほど。一方で、事業としての魅力はどこに感じたのですか?
ソルナの事業の魅力は、マクロでいうと、ネット風評被害対策の市場自体が年20パーセントの高い成長率で拡大していること。成長する市場であれば、当然、そこにいるプレイヤーも成長できます。

ミクロでいえば、収益基盤が安定している。ソルナのサービスは基本的に年間契約なので、お客様が離脱さえしなければおおむね安定した売上が見込めます。この分野のパイオニア的存在として一定の知名度もありますから、社員を不安にさせることなく新しいチャレンジができると思ったのです。

つまり、マクロでもミクロでも伸び代がある。経営基盤はしっかりしているので、データ分析と営業・マーケティングを連動させて戦略的に展開していけばもっと市場を開拓できるだろう、と。前職の野村證券、ボストンコンサルティンググループで培った知識とスキルを生かせると思いました。

――ネット風評被害対策の市場が年率20パーセントで拡大しているのは驚きですが、それだけ潜在的なニーズがあるということですか?
風評被害の重大さに企業の経営者が気づいていない、あるいはそこまで関心を持っていない側面は多々あると思っています。風評被害はいったん発生すると、売上も影響を受け、採用にも響いてくる。損失は甚大です。

わかりやすくハウスメーカーの例をあげますが、住宅という高額商品を買う人たちは契約前に必ず会社の評判を調べます。もしそこで「ブラック」とか「欠陥」というワード、記事を見つけたらどうでしょうか。不安に駆られ、契約をキャンセルするのは想像に難くありません。

住宅は1件の失注で数千万円の機会損失が生じます。風評がひどくなれば、機会損失は何億、何十億と積み上がっていく。のみならず、採用でも同じことが起きます。求職者は応募の前に必ず就職口コミサイトを調べますから、そこで悪い評判を発見したらまずアプローチしないでしょう。

新卒採用の場合はもっと深刻で、内定を出したにもかかわらず、親御さんがネットで会社を調べ「この会社はブラックだからやめておきなさい」と。いわゆる「親ブロック」といわれる事象で、内定辞退の一因になっています。人手不足の時代に採用ができないとなると、会社の屋台骨が揺らぎかねません。

●就職口コミサイトの投稿事例

画像を拡大 提供:ソルナ

――消費行動や就職活動のベースがネット情報になっている、しかし企業はなかなかそこに手を打てない、と。
私個人の見方ですが、風評被害対策は表面化している市場規模の10倍くらいの潜在ニーズがある。そのためお客様である経営者の方々に被害の重大さを説き、気づいていないニーズをいかに掘り起こせるかがポイントだと思っています。

当社は売上構成比の半分以上が既存のお客様からの紹介です。これまでの実績と信頼を基盤に依頼をいただけるのは強みですが、一方で、営業・マーケティングを仕掛けて新規受注を獲得するのはあまり得意ではない。いまの基盤を大事にしながら、今後はターゲットごとに営業戦略を立て、より能動的にニーズを掘り起こしていきたいと考えています。

実際、機会損失を数字で見せると、多くの経営者が驚きます。会社のホームページを何人が検索し、うち何人が逃げてしまったのかは調べられる。例えば、費用をかけてSEO 対策をしたけれど、会社名を検索した人の3割がネガティブなワードに引っ張られてまとめサイトや掲示板に流れていた、と。なかなかのインパクトですが、自社では気づけません。