感染力が極めて強い麻疹(はしか)の流行が懸念されている。国内には土着ウイルスがいないとされるが、今年は5月までに昨年1年間を上回る10人(速報値)の患者が報告された。新型コロナウイルスの流行で停滞していた海外との往来が活発になる中、外国ウイルスが広がった恐れもあり、専門医はワクチン接種を訴えている。
 はしかを引き起こす麻疹ウイルスは、空気や飛沫(ひまつ)などから感染する。10日ほどの潜伏期間を経て発熱やせきが出た後、高熱や発疹が現れる。肺炎などを併発することもあるが特別な治療法はなく、先進国でも1000人に1人が死亡する恐れがある。
 日本では2008年に1万人超の患者が出たが、ワクチンの定期接種が2回に増えたことなどから、15年には35人に激減。世界保健機関(WHO)から、国内に土着ウイルスがいない「排除状態」と認定された。
 その後は海外から持ち込まれたウイルスによる患者が主で、新型コロナの流行で水際対策が強化されると20年は10人、21、22両年は6人にとどまった。
 国立感染症研究所によると、今年は5月28日時点で10人に上る。都道府県別では東京5人、兵庫2人、茨城、神奈川、大阪が1人ずつで、その後も北海道や千葉市などで確認された。
 水際対策が終了して海外への旅行客や訪日客が増えたことに伴い、ウイルスの流入リスクはさらに高まる。4月にはインドから帰国した茨城県の男性が発症、新幹線で同じ車両に乗り合わせた都内の男女に拡大した。
 感染予防にはワクチンが最も有効で、定期接種の機会は1歳時と小学校入学前の2回ある。ただ21年度の2回目接種率は93.8%で、低下傾向が続く。新型コロナ下での受診控えが影響した可能性もある。
 ワクチンに詳しい、おおた小児科(千葉市)の太田文夫院長は「患者は今後も増えるだろうが、パニックになる必要はない。定期接種の時期を逃さず、必ず2回受けてほしい」と話している。 

(ニュース提供元:時事通信社)