東シナ海で中国軍の活動が活発化し、台湾海峡を巡る緊張が高まる中、有事の際に「最前線」となる南西諸島の住民の避難について政府が本腰を入れ始めた。松野博一官房長官は沖縄県の石垣島(石垣市)と与那国島(与那国町)を視察し、地元首長と協議。シェルターなど避難施設の整備や輸送手段の確保といった国民保護の体制づくりを進める方針を示した。
 松野氏は23日、台湾から約110キロに位置する与那国島を訪れ、糸数健一町長と町役場で面会。「日本を取り巻く安全保障環境は大変厳しく、複雑化しており、国民保護の重要性が高まっている」と強調した。糸数氏はシェルターについて「堅牢(けんろう)で多機能なものを造る必要がある」と述べ、国に整備を求めた。
 国民保護を目的とした官房長官の現地視察は初めて。22日に石垣島で中山義隆市長と面会。24日には竹富町の前泊正人町長と会う。宮古島市などその他の自治体とも協議する見通しだ。
 政府が昨年末に改定した安全保障関連3文書は、台湾有事をにらみ、南西諸島の住民を迅速に避難させる「国民保護の体制強化」を明記。輸送手段や各種避難施設の確保、空港・港湾などの公共インフラ整備を掲げた。
 ただ、多くの離島に点在する住民の避難は容易ではない。政府と沖縄県、地元自治体は3月、武力攻撃事態を想定した図上訓練を初めて実施。住民と観光客の計12万人が九州まで避難するには、6日間を要するとの試算が示された。避難には民間の航空機と船舶の利用を想定するが、天候や情勢の悪化で移動が困難になる恐れもある。
 シェルターも不足している。沖縄県内で、安全性が高いとされる地下施設は6カ所しかなく、本島以外では石垣島の1カ所だけという。内閣官房は昨年度の補正予算で、シェルターに関する「調査費」として7000万円を計上した。技術・費用面の課題について引き続き検討する。
 もっとも、太平洋戦争末期に激しい地上戦を経験した沖縄県では、こうした動きに複雑な感情もある。地元自治体がシェルターの整備を求める一方、市民団体などは「戦争の準備だ」と疑問視。一連の体制整備には住民理解が欠かせず、政府は丁寧な対応を求められそうだ。 
〔写真説明〕沖縄県与那国町の糸数健一町長(左)と面会する松野博一官房長官=23日、同町役場
〔写真説明〕石垣港を視察する松野博一官房長官(左端)=22日、沖縄県石垣市

(ニュース提供元:時事通信社)