宇宙は通信や位置情報サービスといった市民生活の基盤だけでなく、安全保障分野でも地政学的競争の舞台になった。中国やロシアは人工衛星を破壊・妨害する手段を配備し、北朝鮮も軍事偵察衛星を開発。宇宙の軍事的支配権「制宙権」争いが過熱する中、日本も宇宙空間の脅威に対処するための取り組みを加速させている。
 「インド太平洋地域における米軍の作戦実行能力の妨害を狙っている」。プラム米国防次官補(宇宙政策担当)は4月の議会公聴会で、中国が台湾有事などを見据え、宇宙の軍事利用を加速させていると警告した。
 中国は人工衛星を破壊するミサイルやレーザー兵器、衛星を攻撃する「キラー衛星」に加え、サイバー・電子攻撃で衛星機能を無力化する能力の向上を急ぐ。米専門家によると、中国が2022年に打ち上げた軍事関連衛星は45基で、米国の32基、ロシアの15基を上回った。
 通信から情報収集、精密誘導爆撃、ミサイル防衛に至るまで、現代の軍事活動のほとんどは人工衛星などの宇宙アセット(資産)に依存している。ロシアはウクライナ侵攻開始の約1時間前、米通信衛星サービス企業にサイバー攻撃を実施。大規模な接続障害が発生し、同企業を利用していたウクライナ軍を混乱に陥れた。安保専門家は「有事の際には宇宙アセットの防護が死活的に重要ということを示した」と指摘する。
 宇宙空間における脅威の増大を踏まえ、日本は昨年3月、「宇宙作戦群」を発足させた。今年6月には、宇宙分野に特化した今後10年間の戦略文書「宇宙安全保障構想」を策定。宇宙監視用の衛星やレーダーの整備も進めている。
 だが、宇宙全体を監視するには、多国間の連携が欠かせない。今後、政府がいかに機密情報の取り扱い資格「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」の制度化やサイバーセキュリティーの整備を進め、同盟・パートナー国と高度な機密情報を共有できるようになるかが、連携深化のカギを握っている。 
〔写真説明〕北朝鮮の軍事偵察衛星「万里鏡1号」を載せたロケットの打ち上げ=11月21日、平安北道(朝鮮中央通信が配信)(AFP時事)

(ニュース提供元:時事通信社)