【台北時事】台湾総統選が1カ月後に迫る中、偽情報の拡散などで世論に影響を与えるため、中国の習近平政権が繰り広げる「認知戦」への懸念が強まっている。世論調査で偽情報に接したと答えた人は8割超に達し、情報拡散の手口も巧妙化。対策に取り組む民間組織の幹部は「多過ぎて対応し切れない」と話す。
 ◇与党候補を中傷する動画
 台湾の中央通信は7日、総統選に関して「候補者の国籍が中国の偽情報の標的になっている」と報じた。「最大の標的」は、米国人の母を持つ与党・民進党の副総統候補、蕭美琴・前駐米代表(大使)。蕭氏は2002年まで米国籍を保有していた。二重国籍者は立候補が禁じられており、蕭氏は米国籍を放棄したことを認めている。
 しかし、ネット上では蕭氏を中傷する情報が後を絶たない。蕭氏は中国語と英語を同程度に流ちょうに話すが、外国人記者に英語で答える動画と共に「中国語を話せない」という偽情報も広がっている。中国に融和的な政権の誕生を望む習政権の意向を踏まえ、米国と関係の深い蕭氏のイメージダウンを狙った情報拡散だとみられている。
 ◇「総統選に影響図る」
 台湾との統一を目指す中国は長年、親中的な考え方が台湾社会に浸透することを目指し、工作活動を行ってきた。総統選が近づくにつれ、この動きは活発になっているもようだ。
 台湾大などが5月に発表した調査では、過去1年間に偽情報に接したことがある人は、前年比8ポイント増の83%に上った。うち34%超が「毎日あるいは頻繁に接した」と回答した。台湾の呉※(※金ヘンにリットウ)燮・外交部長(外相)は今月5日、「台湾社会の(言論空間の)開放性を利用し、(習政権が)総統選の結果に影響を与えようとしている」と警戒をあらわにした。
 中国の工作に対して、台湾では政府や軍だけでなく、複数の民間組織が対応の一翼を担っている。台北市にある非営利団体「台湾ファクトチェックセンター」は、記者経験者を中心とする約20人のスタッフで運営。10月中旬に事務所を訪れると、約10人がパソコン端末で作業していた。
 最近の偽情報について、同センターの邱家宜・事務局長は「数が多過ぎ、分析対象を絞っている」と説明。人工知能(AI)技術を用いて、動画が作成されるようになり、うそを見抜くことが困難になり、情報の出所を特定できないものも増えているという。 
〔写真説明〕台湾の非営利団体「台湾ファクトチェックセンター」の邱家宜・事務局長=10月16日、台北市

(ニュース提供元:時事通信社)