サイバー攻撃の兆候を捉えて事前に対処する「能動的サイバー防御」を巡って、政府が目指す1月召集の通常国会への関連法案の提出が見通せていない。憲法が保障する「通信の秘密」とどう整合性を取るかなど、法整備に向けた議論が遅れていることが影響している。
 能動的サイバー防御は、被害を未然に防ぐため、政府機関や電力、金融など重要インフラ事業者に対するサイバー攻撃を対象に、事前に攻撃者のサーバーを検知し、侵入・無力化する措置を指す。
 中国やロシア、北朝鮮などによるサイバー攻撃に対する脅威の高まりを踏まえ、政府は2022年末に国家安全保障戦略で導入を決定。「サイバー安全保障分野での対応能力を欧米主要国と同等以上に向上させる」と明記し、法整備やサイバー安保政策を総合調整する新組織の設置を盛り込んだ。
 体制強化も急いでいる。防衛省はサイバー専門部隊について、23年度末での約2200人から、27年度末に約4000人まで増強する計画。警察庁も現在のサイバー特別捜査隊を「部」に格上げする方針だ。
 政府は電気通信事業法や不正アクセス禁止法などの改正を念頭に置く。現状では攻撃の兆候を捉えようにも、通信事業者などからの情報提供や本人の承諾なくデータにアクセスすることが難しいためだ。「通信の秘密」などとの整合性を整理するため、憲法学や情報通信分野などの専門家を招き、有識者会議を開く調整を進めている。
 ただ、防衛装備移転三原則見直しに関する与党協議の遅れなどが影響し、当初想定した昨年中の有識者会議の設置は見送られた。立憲民主党幹部は「『能動的』とはどの程度なのか、定義があいまいだ。『通信の秘密』を侵される危険性もある」と指摘する。議論が生煮えのまま法案が提出されれば国会審議が紛糾するのは必至だ。
 ◇首相、早期提出明言せず
 推進派の自民党デジタル社会推進本部などは昨年12月、岸田文雄首相に早期の法整備を提言した。同党関係者は「外国からの脅威は高まっている。早期に対応しなければ、日本だけ取り残されてしまう」と危機感を示す。
 首相は検討を急ぐ必要性を示しつつ、「法整備に関してはいろいろな問題もある。論理的組み立てをきちんと作らなければいけない」と慎重さを崩さなかった。自民派閥の政治資金規正法違反事件を受け、政府内では「通常国会は政治改革一色になる」(高官)として、早期の法制化を困難視する見方も出ている。 
〔写真説明〕岸田文雄首相に「能動的サイバー防御」の早期法整備を提言した自民党の平井卓也デジタル社会推進本部長(中央)ら=2023年12月19日、首相官邸

(ニュース提供元:時事通信社)