【北京時事】中国政府が航空宇宙や人工知能(AI)といったハイテク産業の育成を急いでいる。豊富な労働力を前提とした従来の労働集約型の産業構造を高度化し、人口減が進む中でも経済成長を続ける未来図を描く。ただ、米中対立や外資離れなど、先行きには不透明感も漂う。
 ◇習氏が革新訴え
 「技術革新を加速させ、強大な新興産業を育てないといけない」。習近平国家主席は全国人民代表大会(全人代、国会に相当)開幕日の5日、江蘇省の会議に参加し、こう訴えた。中国は生産性向上などを通じ、2035年までに国内総生産(GDP)を20年ごろに比べて倍増させる目標を掲げる。年4%程度の成長が必要となる計算だが、労働力人口は減少局面に入っており、成長率は鈍化。地方政府関係者は「成長持続には生産性の向上が課題だ」と話す。
 中国の研究開発費は過去10年で3倍近くに急増し、22年には3兆元(約62兆円)を超えた。技術力の蓄積は着実に進んでおり、航空宇宙や電気自動車(EV)の分野では世界的に影響力を持つ企業が続々と誕生。自動運転技術が実用化されるペースも目覚ましく、北京市など各地の大都市で自動運転タクシーが走る。
 ◇対米関係に懸念
 だが、産業構造の転換はそう容易でないとの声も出ている。先進国入り前に経済が失速する「中所得国のわな」に陥らなかった国は日本など一部に限られるのが実情だ。ハイテク製品に不可欠な半導体は設計、製造装置、素材、製造技術などあらゆるノウハウを日米欧や台湾、韓国が囲い込み、輸出規制を強化。AI開発などに不可欠な先端半導体の入手が困難になっている。
 特に米国との対立は懸念材料だ。民主党のバイデン大統領は中国を「最大の競争相手」と位置付け、同盟・友好国を巻き込んでハイテク技術の封鎖網を強化するなど圧力を強めてきた。一方、11月の米大統領選に向け、共和党の候補指名を確実にしたトランプ前大統領は対中関税を大幅に引き上げる方針を表明。いずれの候補が勝利しても、米国の強硬姿勢は変わらない見込みだ。
 中国の半導体開発は、制裁の影響で大幅に遅れつつある。欧州では安価な中国製EVの流入に対する警戒感も高まっている。産業の高度化には「対外関係の安定」(日系半導体大手)がカギの一つになりそうだ。 
〔写真説明〕中国・北京市内を走る自動運転のタクシー=1日

(ニュース提供元:時事通信社)