2011/03/25
誌面情報 vol24
BCMに挑む
奥地建産(本社:大阪府松原市)
奥地建産株式会社(本社:大阪府松原市)は、本社および三重工場、大阪事務所で事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際的な規格である「BS25999-2:2007」の認証をビューローベリタスジャパン株式会社から取得した。同社は、2009 年7月に中国・九州で発生した豪雨災害で、取引先の大手住宅メーカーからリスクマネジメントへの取り組みの要請があったことからBCMSの構築を進めてきた。

奥地建産は、プレハブ住宅の鋼製建材や太陽光発電パネルの架台など特殊製品の開発・製造を手掛ける建築資材会社。現在は土木分野にも事業を拡大しているが、主な顧客は大手住宅メーカー。他の資材会社では作ることが難しい製品も数多く手掛けている。
BCMSの取得準備を始めたのは2009 年の秋。きっかけは、同じ年の7月に中国・九州北部地区で発生した豪雨災害。この豪雨で取引先の大手住宅メーカーの工場が被災し、近くにあった大手住宅メーカーの関連会社も生産設備が水没するなどの被害を受け、1カ月間の操業停止に追い込まれた。
大手住宅メーカーでは、豪雨災害後、協力会社各社に対して「製品や技術の供給がストップしてしまうと事業に大きな影響が出るので、リスクマネジメントに取り組んで欲しい」と事業継続体制の強化を要請。そこで、同社では、リスクマネジメントへの取り組みを具体的に示せるものとしてBCMS構築を決めた。
同社には、古くから納期遅れや欠品は絶対に許されないという社風があった。また、ここ数年、インフルエンザ対策として従業員に予防接種を受けさせるなど、危機管理に対する意識が社内および社員に浸透していたこともあり「BCMS構築についてトップの決断や社員の協力はスピーディーだった」と品質保証部の馬渕義弘部長は振り返る。
しかし、いざ実際に準備を始めると様々な問題に直面したという。特に、参考にできる他社の事例がない中で「我が社のような中小企業がどこまでやるのか」(馬渕氏)については悩んだという。
苦難の末に作り上げたBCMSは、取引先企業から高い評価を得た。大手住宅メーカーが懸念していた有事のときの初動体制については「非常に安心してもらえた」(馬渕氏)と話す。

BCMSを作り上げるプロセスでは、リスクアセスメントや事業インパクト分析により、何が危機なのか、その危機によってどれぐらいの障害が起こるのかが明らかになり、こうした情報を従業員が共有できるようになったとする。BS25999の審査時には、社内でそれまで十分認識できていなかった「本当は何が必要なのか?」という迷いや方向性も審査員の指摘により改めて認識できたという。
もう1つ、馬渕氏はBCMS構築のメリットとして「我が社のコアコンピタンス(競合他社に真似できない核となる能力)」が明確になったことを挙げる。取引先からの要請の内容などを精査する過程の中「何が評価されているか」「何が心臓部なのか」が明らかになってきた。
BCMSは、事故や災害を対象としているだけに、形骸化しやすい性格を持つ。立派な事業継続計画が策定されていてもそれが企業文化として浸透していないと継続的な運用に結びつかない。そのため、馬渕氏は「繰り返し演習し、改善を行い、従業員の意識と行動が変わるところまでもっていきたい」と話している。
誌面情報 vol24の他の記事
- 日和佐信子氏に聞く、企業再生のポイント
- 東日本大震災 問われるBCPの真価
- 豪雨きっかけに危機管理を強化
- 様々な脅威に対するBCPを策定
- 国際安全保障‘環境’と政治的リスク
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方