2011/03/25
誌面情報 vol24
大切なのは、どう実践していくか
Q、 2000 年の食中毒事件と、2002 年の牛肉偽装事件、一連の事件の本質は何だったと思われますか?
会社の体質だと思います。もちろん他にもいろんな要素がありますけど、一番大きかったのはトップダウンで縦割り、自由に物が言えない内向きな組織体質でしょう。
Q、就任された当初の印象を覚えていますか?
想像外でした。あれだけの事件を起こして大騒ぎになっていたわけですから、かなり皆ピリピリとしているんじゃないかと思ったのですが、意外にそうでもなかった。それと、社員の皆さんがとても親切で、人柄がよく、イメージとのギャップを感じました。
当時、朝、出社すると私の机の上には毎日のように創業者の書いた言語録だとか、過去の会社のいい取り組みなどがまとめて置かれていました。最初は、私をけん制しているのかって誤解していました。それが、本当は、「雪印って、こんなにいい会社なんだよ」ということを私に伝えたい、“雪印大好き人間”がたくさんいるということに気付いたのです。
Q、 この会社なら、立ち直れるという感じはありましたか?
ありましたね。私は倒産するとは思いませんでした。少なくても会社の体質としては。それはかなり早い段階から感じていました。
Q、 一方で、再生をしながら、課題、難しさを感じたことは?
いかに定着、徹底させていくかです。仕組みをつくることは頑張れば誰でもできますが、定着徹底させることが難しいわけです。例えば、「雪印乳業行動基準」を定着させるために、各部署ごと必ず月1回、15 分でも30 分でもいいから、何かやるということを決めました。最初は何をやっていいのかも分からないでしょうから、読み合わせでもいいということにしました。とにかく少しずつでもいいので繰り返すことで定着させていくのです。
1つの仕組みとしては、残業みたいな形でやっては駄目ということにしました。つまり、業務時間内にやりなさいと。そのかわり、いろいろなツールも提供しました。例えば、こういう場合、あなたならどうするかという事例集や問題集も作りました。そうしたら、いつの日か自分たちで問題集を作る工場が出てきて、それが全社に広まって、いろんな部署が自分たちのケース集や、問題集を作り始めるようになったのです。今では、各部門の事例集や問題集がお互いにネットから引き出せるようになっています。
面白いのは、正解がないような問題が増えてきたことですね。どう判断したらいいか分からないようなことを、皆が議論する機会が増えてきました。これはとてもいいことだと思います。
Q、 不祥事の本質である「内向き体質」を実感されたのはいつぐらいのことですか?
就任後、すぐに、各工場をまわって、普通の社員と意見交換をする場を設けてもらったのですが、その時に社員の方々から言われたのは、前は、社長も役員も一度も工場に来たことはない、役員とこうやって話すのも初めての経験だということです。上に向かって意見を言うなんてことはできなかったのでしょう。ここ(本社7階)も、昔は役員のフロアで、赤いじゅうたんが敷かれていたんですよ。あれには、本当にびっくりしましたね。
Q、 社外取締役に就任されて9年になります。会社の体質は変わりましたか?
変わりましたね。行動基準をつくるとき1500 人もの方から意見が出てきたときは本当に嬉しかった。最初にヒアリングした時は、上司がいると意見が出なくて、上司は外に出てもらって話し合いをしたものです。そうしたら、ヒアリングの後に、CSR室に「今日はどんな意見が出た」なんて問い合わせがあったくらいです。本当に変わりました。
Q、ホットラインも整備されていますが定着率は?
認知率は80%以上と高いし、今のところ順調に意見は吸い上げられていると評価しています。基本は公益通報者保護法に基づいているのですが、あの法律に則ってやろうとすると、とても難しくて運営できないので、何でもいいから、業務に関する相談を寄せて下さいということにしています。新入社員から、上司の帽子のかぶり方が悪いなんていう連絡が入ったこともあります。ホットラインに寄せられた相談は、もちろん個人情報は出しませんが、企業倫理委員会に報告してもらい、CSR 室でどのような対応をしたか、その対応は問題なかったのかなどについて委員から意見をいただくようにしています。
Q、 今の体制なら、食中毒事件は防げたと思いますか?
2000 年の食中毒事件は氷柱の落下で停電になったという本当に特殊な条件でした。もし、同じことが起きたとすると、停電は防げないでしょうが、その後の処理について、一定時間以上経ったものは、処分することが今では徹底できています。やはり、当時いけなかったことは、情報をその部署の中に留めてしまい、他の部署と共有可されていなかったことだと思います。
ただ、一方で、万が一にも食中毒事件が起こる可能性があることは考えておかねばいけません。
Q、 いろんな業界、組織で不祥事が続いておりますが、組織を再生するには何が一番、大切だとお考えですか?
再生させる仕組みや、システムは確かに大切ですが、それを誰がどう実践していくかということだと思います。仕組みをつくっても実践しなければ何の意味もない。どう具体的に実践していくかです。
特に、企業・組織のトップが情熱を持って先頭に立つということ。あとは、世の中の動きを見ないと駄目です。自分の組織のことだけではなく、社会全体がどのように動いているか。それを敏感に読み取って自らの経営の中に生かしていくということです。
誌面情報 vol24の他の記事
- 日和佐信子氏に聞く、企業再生のポイント
- 東日本大震災 問われるBCPの真価
- 豪雨きっかけに危機管理を強化
- 様々な脅威に対するBCPを策定
- 国際安全保障‘環境’と政治的リスク
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方