2026/05/26
事例から学ぶ
失われた危機意識を取り戻す
どのメーカー系列にも属さず、複数の自動車メーカーや1次サプライヤーに四輪と二輪用の電装部品を供給する独立系のサプライヤーであるミツバ(群馬県桐生市、日野貞実代表取締役社長)。近年、過去に考えられた災害対策が、途絶えつつあった。同社では“自分ごと化”で従業員の危機意識を高めるため、災害図上訓練を実施。参加者の意欲が高まり、対策用の新たな要望が集まるなど、確実な手応えを感じている。
①DIGで危機意識を高める
・勤務地周辺のリスクを地図上で可視化し、発災による被害を確認し、下すべき判断や取るべき行動をイメージ。
②訓練の進行役を各拠点の担当者に委ねる
・拠点における自分たちの責任と役割を再認識し、対策を進める動機づけができる。
③従業員の居住地を地図上に見える化
・居住地の地理的な偏りを踏まえた対策が期待できる。自宅と会社に限定されず、より広いエリアに意識が向く。
途絶えた対策
群馬県と栃木県の境界にある皇海山を水源とする一級河川・渡良瀬川の近くに本社を構えるミツバ。周辺には研究開発センターも位置している。生産統括部グローバル管理課のチームリーダーである桑原良徳氏は「工場内では生産ラインのレイアウト変更を行うことがよくあり、生産性を優先してだんだんと設備の床への固定などの地震対策が実施されなくなってきました」と語る。
同社は、2011年3月の東日本大震災で、震度6弱を記録した福島県田村市にある福島工場が被災した。天井の落下、壁の崩落、配管の破断、設備の転倒、製造部品の散乱などが発生。特に盛土で造成したエリアでは地面に亀裂が入り、被害はいっそう大きかった。それでも、約1週間でほぼすべての生産ラインを復旧させることができた。
この被害から2年ほどは、復旧までの時間を短縮するための活動が熱心だった。設備の転倒やズレを防ぐために床に直接固定。スピーディな生産ラインの復旧のため、設備や機器の設置場所を床にマークするといった工夫だ。それは福島工場に限らず、各工場が競うように取り組んでいたという。
しかし、時間の経過とともに防災意識は失われていった。避難訓練も形骸化し、集合場所で点呼はしているが、出社者を突き合わせた確認もしていなかったという。災害対策への意識低下が現場ではっきり確認できる状況の中、同社にとってまたとない機会が訪れた。日産自動車から、工場を一緒に確認して対策を考える活動について声がかかったのだ。
同社はこれをBCP現場確認会と名づけて2024年8月に初めて行った。自動車メーカーの現場確認と聞くとサプライヤーは品質や工程の監査を想起し、関係者はみな身構えていた。実施場所は本社と同じ桐生市にある主力工場の新里工場だった。1日目の午前では日産が考える、悩みや課題を一緒に解決する協業で高めるBCPについての説明があった。続いて、地震発生後に刻一刻と判明する状況について、重要な判断を求められるシミュレーションを経験した。
このシミュレーションを、同課で課長を務める村山純一氏は「今、この場で地震が起こった時にどう判断するか。本当に迷う内容。厳しい現実を突きつけられました。判断を誤ると、後々への影響が大きいと感じました。初動の重要性を認識させられる機会でした」と話す。
シミュレーションは、地震発生後に周りにいる従業員にどう声をかけるか、倒れている人にどう対応するか、外に避難した後で再度工場に入ってもいいのか、帰宅希望者を帰らせるのか、そういった判断を1分ごとに求められるような内容だった。本当に迷う難しい質問だったという。
午後からは日産の担当者と新里工場内を一緒に歩き回った。村山氏は「一般的なメーカーによる視察と違い生産ラインだけではなく、奥まったところにある発電設備を含め、防災的な視点で確認していました」と話す。
特に注視していたのは人命に関わる部分。火を使う設備での安全対策や避難経路の確認などが念入りだったという。一方、一時避難場所の表示や転倒防止チェーンなどの対応は評価された。村山氏は「日産の方からは指摘ではなく、前向きなアドバイスやアイデアをいただき、和やかな雰囲気でした」と話す。
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