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今回も前回のコラム第17回で述べた「1990年8月2日イラク軍のクエート侵攻の対応に関して」の続きを見ていきます。

Ⅰ.事象の整理

1.イラクのクウェート侵攻後②
<陸路脱出ルートの可能性が無くなってからの行動>

8月2日

(1)本社からクウェート時間午前5時半(東京時間11時半)に「ロイター電で、イラク軍が侵攻したと言っている。早く国外に脱出しろ」とT氏に電話で連絡。その後すぐに、中東地域の駐在員事務所を総括するアブダビの中東事務所長からも同様に電話が来る。既に砲撃の音が聞こえ始めたため、家族に脱出の準備をさせる。日本大使館に電話するも誰も出ず。詳しい情報を知るべく、A石油のB事務所長に電話。A石油はクウェートとサウジの旧中立地帯のカフジに原油の出荷施設があり、陸路脱出の際には心強く、クウェートの約400名の日本人の緊急連絡先となっている。B事務所長はこの時点ではまだ状況を知らず、T氏から「カフジ方面に陸路で逃げるなら、一緒に行きませんか」と伝えるも、B事務所長は「空路が閉鎖されているかどうか、もう少し様子を見ましょう」と返答。

(2)その時点でT氏は陸路をあきらめ、空路での脱出を試みる。クウェート事務所のベテランのH運転手(イラクからの出稼ぎのイラク人。アラブなまりの英語をしゃべり、クウェート事務所に15年以上勤務する信頼できるスタッフ)にT氏の家族を先に空港に連れて行くように依頼。家族とは空港で合流することとする。

(3)T氏は6時に自宅から車で10分ほどの事務所に行き、金庫から現金、小切手帳、アブダビまでのオープンチケットを取り、空港に向かおうとした時、H運転手から、緊急時に備えて、最近取り付けておいた自動車電話で「空港が爆撃を受け、既に閉鎖されている」と連絡を受ける。家族を家に戻すように指示。

(4)空路がダメ、カフジに向かう陸路も様子が十分わからずかえって危険、残るは海路しかない、自社のタンカー会社に連絡。残念ながら、タンカーは出航したところで、海路による脱出路も全て断たれることとなる。

(5)脱出路を全て断たれたのち、自宅に向け自分で運転して帰宅。その途中、イラク兵に会うも、無事通過。途中「ガソリンを満タンに」との緊急時マニュアルに沿い給油。ガソリンスタンドでたまたまパトカーも給油中で、警官に空港の状況を聞いてみると少し慌てていたが、「ノー、プロブレム(問題ない)」との回答。アラブの経験則では、彼らアラブ人が、「ノー、プロブレム(問題ない)」というときは、既に問題が起きているという意味で捉えるのが常識だが、周りでガソリンを入れている人たちもまだ何も知らない様子であった。

(6)7時過ぎに自宅に帰り、JALのⅯ氏に空港の被爆と閉鎖を確認。商社の駐在員とも情報収集を相互で行う。日本大使館は相変わらず通話中で通じず。取引先のKPC(クエート国政石油)の担当者も戦闘の状況はわからない中、爆撃と機銃掃射が激しくなってくる。

(7)10時半頃、T氏のマンションに近いダスマンパレス(王宮)前で、激しい砲撃と銃撃戦が開始。イラク軍のヘリが轟音を立てて、自宅の真上をパレス方面に向かう。T氏は窓にソファーを立てかけ、被爆しても破片が飛び散らないようにし、砲弾が飛んでくるのと反対の部屋に家族を避難させる。

(8)11時に本社から指示。①外に出ないこと。道で車から引きずり出されるものがいて危険。②ラジオの日本語放送を聞くこと。③カフジ行はやめた方がよい、の3点。その時に日本大使館とも連絡が取れたが、大使館の指示も①②と同様。テレビは、侵攻についての放送はなく、一日中ジャビル首長やアサド皇太子の肖像を映し、クウェート国家を流している状況。

(9)12時40分、激しい爆発音があり、部屋が揺れる。隣のマンションにロケット弾が被弾。数分後二発目が命中し、窓枠が落ちる。家族で、地下の駐車場に避難。その後、砲弾の飛んでくる報告を確認し、自宅の塔は比較的安全と判断し、自宅に戻る。自宅には、マスコミから数件の電話がかかってくる。間接的に無事でいることを知らせる意味もあり、大変な中対応。

(10)ラジオのアラビア放送を聞いていたH運転手の妹が「イラク軍は市民に危害を加えないと発表している」との情報を電話で教えてくれる。暫くして、戒厳令が占領イラク軍により発動され、15時に砲撃、爆撃音が一時的に沈静化。しかし、17時ころにまた砲撃音が聞こえ、サアド皇太子の邸宅で激しい戦闘が展開。この時点で、今まで通じていたシンガポール経由の回線も含め、すべて通じなくなる。

(11)20時半、隣のビルに住む日本人家族がT氏のマンションに被弾。市内はイラク兵で溢れ、略奪がはじまったとの噂が流れる。22時半、銃撃はピタッと止まり、ラジオではイラクがクウェートの中央銀行の資産を没収したことを報じる。その後、鍵を閉め覚悟を決め就寝。