災害福祉をめぐっては、専門書籍は多く刊行されている

高齢者や障がい者、子どもたちといった災害時に支援が必要となる弱者たちの福祉について専門的に研究する学会が5月に正式に発足する。大学研究者のほか、実務を担う自治体職員、福祉施設職員、社会福祉士らが会員となり、その数は約180人に上る見込みだ。研究会としての活動を経て実績を重ね、このたび、格上げする形で学会として新たに船出し、学術的に理論構築しながら、社会的な発信力を高めていきたい考えだ。

発足する準備が進むのは、「日本災害福祉学会」。5月9日に跡見学園女子大学とオンラインで総会を開いて、団体名称の変更手続きなどを行い、正式に学会を立ち上げる。

共同代表理事には、防災分野から跡見学園女子大学まちづくり学科教授の鍵屋一氏、福祉分野から東北福祉大学名誉教授の都筑光一氏が就く予定だ。

災害時の在るべき福祉についての研究は、世界的にもまだ蓄積が乏しい状態だという。国内でも、福祉分野と防災分野の連携は十分でなく、災害福祉を中心に据えて継続的に議論する場も限られていた。そうした中、鍵屋氏らが発起人となって、2024年9月に跡見学園女子大学を事務局として研究会を新設した。

研究会の事務局を担った跡見学園女子大学

当初は100人ほどだった会員も、翌2025年度には150人(正会員82人)に拡大。総会を開催したり、研究論文や実践報告などをまとめた研究誌「災害福祉研究」(2025年8月発刊)を手掛けたりするまでになり、活動は1年半ほどの期間ですでに学会並みの水準に達したという。

理由について、鍵屋氏は「災害福祉への思いを持つ人たちは多かった。だが、福祉関係者が災害や防災に取り組もうとするときに、しっかり勉強する場や発信する場が十分にはなかった」と話す。

正式に学会になることで、社会に対する影響力を維持でき、成果を社会に還元していく仕組みをつくりやすくなるほか、隣接する災害系の災害医学会や災害看護学会、災害情報学会などとの連携もしやすくなるという。

また、学会の中軸を担う研究者の育成も取り組みやすい環境になる。学会での論文発表は、研究者の実績の中心であり、研究者自身がモチベーションを向上させやすくもなるという。

発足する学会は、会員の構成も特徴的だ。研究者は半数ほどにとどまり、残りは自治体職員、社会福祉士らが占める見込み。学会に格上げされても、現場や実践を重視した活動を推進していくことになるという。年に一度の学会誌の発刊を継続し、今後、政策提言なども行っていく方針だ。

理論構築で、世界貢献

この分野は、大きな転換のさなかにある。

2025年5月には、災害救助のメニューに「福祉サービスの提供」が追加された改正災害救助法が成立した。災害時にも、高齢者や子供ら支援を要する弱者に対して、福祉サービスを提供しなくてはならないことが公的に位置付けられた形だ。

ただ、課題も残っている。実際にどういう福祉サービスが必要なのか、どういった人たちまでを対象とすべきなのかといった点などが、まだ不明確なままだ。

鍵屋氏の主な著作

学会では、災害時でも福祉として提供する「人間らしい暮らし」の水準が、どの程度なのかを理論立てて説明していくことなどが、当面の大きなテーマになるとみられる。こうした議論が、追加された「福祉サービスの提供」が、どういった範囲までを実務的に含むかといった詳細の明確化に影響していくという。

一方、災害の少ない欧米などでも、まだ議論が未成熟な領域だという。災害福祉学会の発足は世界的にも珍しいとみられるといい、鍵屋氏は「日本がこの分野で理論立てて、政策や制度を策定していくことが、世界の災害福祉への貢献にもなる」と期待している。

学会では7月下旬には、初めてとなる研究大会を開く予定で、論文発表と実践報告を行う計画だ。すそ野を広くするため、将来的には会員を数万人規模にまで拡大していくことを目指している。実務家らも参加しやすいよう低額の会費制も設ける。

11月には防災庁発足も控える。鍵屋氏は「大きなチャンスだ。しっかりした提言を行っていきたい」と話した。