地震後、被害があるかもしれない建物への入場判定はどのようにしたらいいでしょうか。私たちは無意識のうちに「建物が壊れていないか=(資産の確認)」と「今すぐ入って命に別状はないか=(安全の確認)」を同時に考えて、自分たちで入場判断を難しくしています。現場の迷いを断ち切るには、時間軸と目的に応じた「二段階のステップ」の判定が役立ちます。
■事例:地震後の建物再入場
ある穏やかな平日の午後。いつも通りの日常が、緊急地震速報の耳を突き刺すような音で切り裂かれました。
激しい揺れが収まった直後、オフィスには社員のどよめきと、天井から舞い落ちた微細な埃の匂いが充満していました。幸い、目立った負傷者はいないようです。マニュアル通りにヘルメットを被り、避難場所である敷地内の駐車場へと社員を誘導します。ここまでは、訓練で何度も繰り返してきた光景でした。
しかし、本当の困難はここから始まりました。
避難して30分が経過したころ、現場の責任者や総務担当者のもとには、不安そうな表情を浮かべた社員たちが次々と集まってきます。
「パソコンの電源を切り忘れたから、一度戻ってもいいですか?」
「家族が心配なので、一度社内に戻って荷物を持ってすぐに帰宅したいんです」「このまま外にいても寒いし、ロビーだけでも開放してもらえませんか?」
Aさんは、目の前の自社ビルを見上げます。外壁に大きな亀裂は見当たりません。窓ガラスも、パッと見たところ割れてはいないようです。ですが、確信が持てません。
「この建物は安全なのか?」という問いに対して、プロではない自分が「大丈夫ですよ」と太鼓判を押していいものか?
もし、中に入った瞬間に再度大きな地震が来て、天井板が剥がれ落ちたら?
もし、見えないところで構造に致命的なダメージを負っていたら?
一方で、何の根拠もなく「立ち入り禁止」を続ければ、事業は止まり、社員を寒空の下に放置することになります。
専門家である施設管理会社の担当者には電話がつながりません。手元にあるBCPマニュアルを開いても、そこには「建物の安全を確認した上で立ち入りを許可する」と一行書かれているだけです。
「その『安全確認』って、具体的に誰が、どうやって判断すればいいんだ…?」
刻一刻と時間が過ぎる中、周囲からの無言の圧力を感じながら、Aさんは冷や汗を拭い、決断を下せないまま立ち尽くしてしまうのでした。
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