2017/05/09
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
図1は前述の問題意識に最も直接的に対応するデータであり、有形固定資産に比べて情報資産に対する保険の活用が進んでいないことを端的に表している(それぞれ回答全体の平均値)。また、本稿ではグラフの掲載を省略するが、情報資産の価値の合計は既に有形固定資産の価値の合計を上回っており、かつ想定される損失額の合計も情報資産の方が大きいことが、アンケートの結果から示されている。つまり図1の分母が左右で異なるため、保険でカバーされていない金額の差は、図1のイメージよりも大きくなるということになる。
しかしながら、これはあくまでもアンケート調査であり、回答者が正確なデータに基づいて回答しているとは限らない。しかも、情報資産の価値や想定される損失額は、有形固定資産に比べて金額換算しにくいと考えられる。したがって、この数字がどのくらい信頼できるかは慎重に考えるべきであろう。アンケート回答者の、当事者としての問題意識が数字に現れたと考えるのが妥当かもしれない。
また図 2 は、情報資産に関する損害保険契約において、保険金が支払われる範囲をたずねたものであり、保険会社との契約範囲を表したものと言えるが、このデータは情報セキュリティに関する事故が発生した場合に、どのような損害が発生しうるかを検討する際の材料としても興味深い。筆者としては特に「ブランドへのダメージ」という、金額に換算しにくい損害に対して、どのような考え方で保険金が支払われるのか(保険契約者はどのような根拠で保険金を請求するのか)、気になるところである。
本報告書には、他にも情報セキュリティリスクと損害保険に関する様々な設問に対して、回答結果がまとめられている。同様の調査を日本国内に限定して実施したら、若干異なる結果になるかも知れないが、自社における情報セキュリティ対策や、損害保険の契約内容の見直しなどを検討する際に、本報告書が参考になるのではないかと思う。
■ 本報告書の入手先 (PDF 32 ページ/約 1.8 MB)
http://www.aon.com/attachments/risk-services/cyber/2017-Global-Cyber-Risk-Transfer-Report-Final.pdf
(注釈)
1) アンケート調査の対象は6万220人であり、無効な回答を除外した有効回答率は 3.6% である。
2) フォレンジックとは、コンピューターやネットワークシステムに残されたログや、ハードディスクの状況などを、専門的な技術を駆使して詳細に調査し、裁判で使うための証拠を収集することである。
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月23日配信アーカイブ】
【4月23日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:南海トラフ地震臨時情報を想定した訓練手法
2024/04/23
-
-
-
2023年防災・BCP・リスクマネジメント事例集【永久保存版】
リスク対策.comは、PDF媒体「月刊BCPリーダーズ」2023年1月号~12月号に掲載した企業事例記事を抜粋し、テーマ別にまとめました。合計16社の取り組みを読むことができます。さまざまな業種・規模の企業事例は、防災・BCP、リスクマネジメントの実践イメージをつかむうえで有効。自社の学びや振り返り、改善にお役立てください。
2024/04/22
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!【2024年4月16日配信アーカイブ】
【4月16日配信で取り上げた話題】今週の注目ニュースざっとタイトル振り返り/特集:熊本地震におけるBCP
2024/04/16
-
調達先の分散化で製造停止を回避
2018年の西日本豪雨で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備町。オフィス家具を製造するホリグチは真備町内でも高台に立地するため、工場と事務所は無事だった。しかし通信と物流がストップ。事業を続けるため工夫を重ねた。その後、被災経験から保険を見直し、調達先も分散化。おかげで2023年5月には調達先で事故が起き仕入れがストップするも、代替先からの仕入れで解決した。
2024/04/16
-
工場が吹き飛ぶ爆発被害からの再起動
2018年の西日本豪雨で隣接するアルミ工場が爆発し、施設の一部が吹き飛ぶなど壊滅的な被害を受けた川上鉄工所。新たな設備の調達に苦労するも、8カ月後に工場の再稼働を果たす。その後、BCPの策定に取り組んだ。事業継続で最大の障害は金属の加温設備。浸水したら工場はストップする。同社は対策に動き出している。
2024/04/15
-
動きやすい対策本部のディテールを随所に
1971年にから、、50年以上にわたり首都圏の流通を支えてきた東京流通センター。物流の要としての機能だけではなく、オフィスビルやイベントホールも備える。2017年、2023年には免震装置を導入した最新の物流ビルを竣工。同社は防災対策だけではなく、BCMにも力を入れている。
2024/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方