社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として考案したAI防災訓練

パソコンの画面には、緊張感を煽るようにこう表示された。

「これは南海トラフ巨大地震を想定した非常にリアルで実践的なシミュレーション訓練です。あなたの判断力と行動力が問われる10問のQ&A形式で進行します」

瞬間、AIが語りかけてくる。

「あなたが地震発生時にいた場所(行動シナリオ)を以下から選んでください」

表示されたのは、次の8つの選択肢だ。

1. 一戸建て自宅内
2. マンション自宅内
3. 電車内
4. バス車内
5. デパート内
6. 高層ビルオフィス内
7. 顧客訪問先宅内
8. 運転中

番号を選ぶと、立地条件(沿岸部・山間部・市街地)と時間帯(昼・夜・休日)が自動で設定され、状況が細かく描写される。

そして、次の瞬間──最初の問いが投げかけられる。

「今、大きな揺れに襲われました。あなたは床に投げ出され、目の前では照明が落下しています。周囲には複数の人。泣き叫ぶ声も聞こえる中、あなたはまず何をしますか?」

回答を文書で打ち込むと、すぐにフィードバックが表示される。

「良かった点:即時行動を起こした判断は適切です」
「課題点:停電リスクを想定した行動が不足していました」

その後、次の質問へと進む。シナリオは時間とともに変化し、周囲の状況も刻一刻と悪化していく。

AIが命を守る判断力を鍛える

プロンプトを考案した吉澤弘典氏

この訓練ツールは、ChatGPTをはじめとする生成AIに入力することで誰もが利用できるプロンプトだ。考案したのは、遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典氏。全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として考え出した。

「『自分だったら?』を問い続ける訓練が、いざというときの命を分ける」と吉澤氏は語る。プロンプトには、想定される状況と、ユーザー自身が答えを探していくQ&A形式が組み込まれており、訓練で模範解答を学ぶのではなく、自らの判断をAIからの評価とともに振り返る構造になっている。

実際に社内でも複数の部署でこのプロンプトを活用し、災害時の対応力を高める一助となっているという。状況は毎回異なり、質問も訓練ごとに変化するため、繰り返し行うことでより深く思考が鍛えられる。

プロンプトは、社内で公開しており、必要に応じて誰でも使用できる。社内からは「面白いですね」「勉強になりました」などのフィードバックを得ていると、吉澤氏は手ごたえを感じている。

スマートフォンひとつで、リアルな危機下の判断力を試すことができる新しい「防災教育」のかたちとして、今後の注目を集めそうだ。

今回、特別にプロンプトを提供してもらった(最後のページより入手可)。

「さまざまな形にアレンジしてもらっていいし、新たなプロンプトについて共有してければ、より実践的な訓練も可能になる」と吉澤氏は期待する。