炎上事例が300例!? 企業のリスク分析に最適
第16回:書評・小林直樹『ネット炎上事例300』

吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
2025/06/11
共感社会と企業リスク
吉野 ヒロ子
1970年広島市生まれ。博士(社会情報学)。帝京大学文学部社会学科准教授・内外切抜通信社特別研究員。炎上・危機管理広報の専門家としてNHK「逆転人生」に出演し、企業や一般市民を対象とした講演やビジネス誌等への寄稿も行っている。著書『炎上する社会』(弘文堂・2021年)で第16回日本広報学会賞「教育・実践貢献賞」受賞。
企業の広報部門向けに、ネット炎上の仕組みや対応策をお話させていただく時、過去の炎上事例をチェックし、なぜ批判に晒されたかを分析することをお勧めしています。何が燃えたのかを知らずに、どのような活動が危ないかを知ることはできないからです。
そうは言っても、あれやこれやと日々発生してくる炎上を追い続けるのはなかなか難しいことです。私自身、学生に「◯◯の炎上をどう思いますか?」と質問されて、初めて知ることもしばしばあります。というわけで、手っ取り早く「これを読んだら、だいたい把握できますよ」と言えるような本でもあればとよいのにとずっと思っていました。
私が書いた『炎上する社会』(弘文堂・2021年)は、炎上の構造や歴史、参加者の傾向の分析が中心で、炎上事例を紹介したり、パターンを分類したりしてはいますが、もう5年近く前の本です。今でも読んでいただく価値はあると思っていますが、脱稿後に発生した事例、たとえば「客テロ」などについては触れていません。
炎上に関する論文や学術色の強い本はいろいろ出ているのですが、実務家向けに網羅的に事例を紹介するような本はなかなかないな…というところに、先月、日経BP社から『ネット炎上事例300』という本が出版されました。
著者は、日経クロストレンド副編集長の小林直樹さん。以前も『ソーシャルメディア炎上事件簿』(日経BP・2011年)、『ネット炎上対策の教科書』(同・2015年)を出版されていて、どちらも研究などで参考にさせていただいています。
先日、『ネット炎上事例300』をご恵投いただきましたので、今回は同書のご紹介をしてみたいと思います。
国内の炎上は、1999年に起きた「東芝クレーマー事件」に遡ります。その後、2ちゃんねるやTwitterなどソーシャルメディアの発展にともなって、著名人もしくは一般人によるネットへの投稿や、不適切な企業活動などなど、いろんなことが燃えてきたわけですが、300事例もあったっけ?と首を傾げながら、目次を開くと、マスメディアで報道された有名な炎上事例とともに、すっかり忘れていたあんな炎上やこんな炎上が並んでいました。
「そうか、ネットニュースで報道されるレベルの炎上なら、もう300件もあるのか」と、ちょっと暗澹としてしまいました。
海外は1例だけ、米ドミノピザのバイトテロが紹介されていますが、ほぼほぼ国内の企業や自治体に関連したものです。一般人が起こした炎上については、二次加害を避けるためか、テレビなどでも報道された有名な事例でも収録されていないものもあります。あくまで、企業の危機管理部門向けの本、と言えるでしょう。
では、どのような事例が紹介されているのでしょうか。
同書では、直近の2025年に起きた炎上事例22例を冒頭に取り上げ、残りは大きく「ジェンダー炎上」「不適切な投稿、行為、広告」「バイトテロ」「炎上エトセトラ」(その他)に分けられています。まずは、その内訳を見てみましょう。
ジェンダー炎上も、内容はほぼ広告・ウェブ動画・ソーシャルメディアへの投稿が不適切だと批判されたりしたものが多いことに注意が必要です。広告やマーケティング・コミュニケーションの炎上は、ジェンダー関連の表現が引っかかる場合が多いので、別にカテゴリーとして立てたという整理の仕方なのでしょう。
目次を眺めているだけでも、「『バイトテロ』、53件も起きていたのか」とか、「やっぱりジェンダー関連の炎上多い…」とか、「『生成AIトラブル』関連の炎上も、もう7件起きているのか」などなど、気づきがありました。
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