2025/06/06
事例から学ぶ

世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
①隙のない安全確保策を実行
・ 高リスク国で活動するため、現地の施設対策から従業員への訓練と教育、そしてウィークポイントである移動まで徹底的に対策を施し、安全性を確保。
②インテリジェンス活動を重視
・ 危険を先取る情報収集を強化するため、現地の文化などを尊重した協力体制を構築。
③具体的な手法と対策を交えた教育活動
・ 空港や市街地、ホテルで発生する事件やトラブルの具体例を題材に、確実に役立つ対策を伝える。
臨場感を重視する訓練

走行中の一般車両が、覆面をかぶり小銃を持った複数の人間に取り囲まれた。「イヤラ、イヤラ」と異国の言葉を強く連呼する人物が銃を動かし、威嚇しながら近づく。そして「パン、パン。パパーン」と銃声が周辺に響き渡る。異常事態が発生しているのは明らかだ。運転手と同乗者は強制的に降車させられ、有無を言わさず黒い袋を頭から被せられた。そして場面は転換する。
次にはアジトと見られる建物内で、黒い袋をかぶったままの人物がひざまずきながら、高圧的に罵声を浴びせられている。外見からは女性に見える。どこの国で発生したテロと思うかもしれないが、千葉県内にあるサバイバルゲームのフィールドで実施された、テロや誘拐、強盗襲撃時の対応を学ぶ訓練であるHEAT(Hostile Environment Awareness Training)のワンシーンだ。これは、東洋エンジニアリングの中東、アフリカなどへの赴任担当者や出張者が必ず受ける訓練。その時の映像だ。
同社で危機管理室室長を務める山口尚良氏は「イヤラはアラビア語で『行け』、ゴーの意味です。赴任地が中東なので当社用にカスタマイズして臨場感を出すような訓練を依頼しています」と語る。
世界各地でプラントの設計から建設、管理まで行う東洋エンジニアリング。ここ10年ほどの間にエジプト、ナイジェリア、イラク、ロシアという危険性が特に高い地域を含め、南米、中東、西南アジア、東南アジアなどの各国で発電や石油化学、化学肥料などのプラントを建設してきた。海外赴任者や出張者の安全確保に尽力して、30年ほどになる。

力を注ぐきっかけは、1989年9月にタイでプラント建設中に起こった銃撃事件。夜、宿舎に戻る社員が乗っていた車が武装グループの銃撃を受け、犠牲になった。この事件を契機に同社が設置したのが海外安全対策室だった。そして、2021年にこの海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立した。新型コロナウイルス対応が加わったことが最大の理由だ。
社長直下の部門で専任は山口氏のみ。各部門長や人事部のグループリーダーなどが兼任でメンバーとなっている。対応範囲は幅広く、国内外で災害を含めた有事対策とコロナなどの感染症対策を含めた健康管理、BCPまでを担当。目標に「国内・海外での事件・事故ゼロを目指し、最善、万全の安全対策、危機管理を行う」「新型コロナウイルスに打ち勝つ」の2つを掲げている。
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