2025/06/06
事例から学ぶ
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開

栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
創設の原点――「笑顔で自信をもって生きられる場を」
現理事長の石橋須見江氏(86歳)は養護学校の教諭として40年近く障害児教育に携わった経験を持つ。中学を卒業しても進学できない、あるいは養護学校で学んで卒業しても、多くの人が一般就労できない現実に対し、中間支援的な組織が必要と感じ、定年を迎える前年、退職金全額を投じ、1998年に法人を創設。翌年開所の通所授産施設「セルプ花」では「楽しく働き、元気に遊び、豊かに住む」を合言葉に就労訓練を始めた。セルプはSELF+HELPを組み合わせた造語で、自分自身の自立と、困ったときには助けを素直に求める力という意味を込めた。
法人名「パステル」は、理解者が少ない中で土地提供を申し出た篤志家の畑に、春先にまっ白なコブシの花が咲いていたことが由来だ。

「施設を立ち上げる時、多くの人から反対されて、もうやめるしかない、と思っていたら、自治会長さんが『土地を提供するよ。僕も頑張るから』と言ってくださったんです。ちょうど、こぶしの花が枯れ木の雑木林の中にひっそり咲いていたのを見て、これから利用される方々の個性をパステルカラーのこぶしの花にのせたいと夢を描いて名付けました」と石橋氏は語る。
石橋氏は、障害者の人権が尊重され、一方で障害を持っている人も自信を持って生きていける社会を夢見て事業を拡大してきた。現在は知的・身体・重症心身障害を抱える人々が、通所・入所・グループホーム・在宅支援という多層的支援の下で働き、学び、暮らしている。施設の利用者は430人(うち約30人が入所施設、約100人がグループホームで生活)、職員数は約300人(約6割がパートタイム)と県内最大規模の社会福祉法人で、全国から見学に訪れる人も多い。


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