2012/10/30
防災・危機管理ニュース
~ISO27031 IT サービス業務継続ガイドラインの活用~
深谷レジリエンス研究所 代表 深谷 純子
レジリエンス・ポイント
①IT 担当者向け実務解説ガイドライン
②IT には IT-BCP が必要
③「サインオフ」はビジネスとIT-BCPをつなぐキーワード
BCP を策定する場合、一般的に地震を想定することが多い。事業継続に必要な重要リソースである IT も同じ想定で十分だろうか。業務中断を招 く、IT トラブルの原因は地震だけではない。むしろ、地震以外の原因で IT は停止することがほとんどである。すなわち、IT に関しては独自の BCP、すなわち IT-BCP が必要であり、全社 BCPと連携して管理され維持されていくべきである。
2011 年 3 月に、ISO/IEC27031 ITサービス業務継続ガイドラインが公開された。(ISO/IEC27031:Guidelines for Information and Communication Technology readiness for Business Continuity) このガイドラインは、情報セキュリティに関する国際標準の一部として策定されているが、IT 担当者に分かりやすく、IT-BCPの策定ポイントが述べられている。
■ITサービス業務継続ガイドラインの位置づけ
IT-BCP を策定する上では、既に公開されている ITSMS(ISO20000 ITサービスマネジメント、いわゆる ITIL)と ISMS(ISO27001 情報セキュリ ティ)、そして現在審議中の BCMS(ISO22301 事業・業務の継続性)が関係している。これらの標準に一部重複する形で、しかも ITサービスの継続に関して詳細に解説されているのが、当ガイドラインである。
■IT-BCP 策定のポイント
IT-BCP の策定は、ビジネス復旧要件を確認することから始まる。ビジネス 復旧要件とは、(1)ビジネス側で決められた優先継続業務、(2)優先継続 業務の RTO(目標復旧時間)、(3)優先継続業務の RPO(目標復旧ポイント) (4)契約上または法的に、遵守または考慮すべき事項 が含まれる。
次に業務と IT の関係を End-to-End で明確にする。ビジネス側と業務に必要な ITリソースを確認する。業務と ITサービスの対応を分析し、優先業務に必要な機器、アプリケーション、データを確認し、最新のシステム及びネットワーク構成図で確認を行う。
現行の IT復旧能力とビジネス復旧要件の GAPを明らかにし、ビジネス側に過 大な期待や誤解のないよう、IT 側のリスクに関しても共通認識を持つことが重要である。
■IT レジリエンス戦略
IT レジリエンスを実現する戦略をビジネス側と一緒に策定する。ビジネ ス側には、現状のリソース状況、対策に必要なコスト (初期費用と継続費 用)と効果、技術的制約等を説明し、リスクに対する考え方を合意する。
障害予防・検知・対応・回復・復旧といった機能を、ビジネス側が求めるレベルで実現するために、以下の要素についての戦略を策定する。
a. 要員: 必要スキル、バックアップ要員、知識経験
b. 施設: IT リソースが設置された物理的な環境
c. 技術: i. ハードウェア(ラック、サーバ、ディスク、テープ媒体、周辺機器等を含む)
ii. ネットワーク(データ通信、音声回線、ネットワーク機器を含む)
iii. ソフトウェア (OS,アプリケーションを含む)
d. データ: アプリケーションデータ、音声データ、その他
e. プロセス: 運用手順、リカバリー手順、保守手順など
目指すレベルが明らかになり、具体的な対策を実施することで、IT-BCP の装を行う。IT-BCP を実効性の高いものとして維持するために、定期的な訓練と見直し、ドキュメント保守、変更管理が必要である。IT-BCP策定後も、全ての維持活動は、ビジネス側に報告し、合意することを強調する。
■まとめ
当ガイドラインでは、随所に「サインオフ」という言葉がでてくる。これは、ビジネスと ITでお互いの要求レベル、実装レベルなど状況すべてを共有し合意することが重要だということだ。IT-BCPと全社 BCPは、車の両輪として組織のレジリエ ンスを高めるために必要だといえる。
【執筆者プロフィール】
深谷純子
社会をレジリエンスにするための研究活動、コンサルテーションを実施。 IT のレジリエンス向上に関しては、前職(日本アイ・ビー・ エム)で BCP策定や運用管理などを約 15年経験。
転載元 レジリエンス協会 会報 レジリエンス・ビュー 第2号
レジリエンス協会
- keyword
- ITセキュリティ
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方