【台北時事】昨年8月上旬、中国軍が台湾を包囲する異例の大規模演習を実施し、国際社会で台湾有事への懸念が高まった。台湾の有力シンクタンク「国策研究院」ナンバー2、郭育仁執行長は時事通信とのインタビューで、その後の1年間に中国の「台湾封鎖」戦略が進んだと指摘。それでも米国が台湾への軍事的関与を大幅に拡大させているため、中国の試みは「成功しない」と予想した。
 ◇「三つの海」
 中国軍は大規模演習以降、台湾周辺での活動を活発化させた。郭氏は「頻度や規模が増えただけでなく、多くの新たな傾向が見られた」と話す。事実上の「停戦ライン」だった台湾海峡の中間線越えが常態化。中国の軍用機や艦艇が頻繁に台湾東側のフィリピン海へ回り込んで訓練し、「中国軍艦4~6隻が台湾周辺に常駐するようになった」と明かす。
 中国の狙いについて「台湾を封鎖された戦場にすることだ」と分析。中国大陸に面した台湾海峡のほか、東シナ海、南シナ海、フィリピン海という海上交通の要路に囲まれ「これら三つの海を支配しなければ、中国に勝算はない」と見る。
 中国は東・南シナ海で、ガス田開発や人工島建設などを着々と進める。郭氏は「今や両海での中国の軍事プレゼンスは、どの国よりも大きい」と説明。最後に狙う「現状変更」が、東方のフィリピン海だと語る。
 それでも、グアムに大規模な基地を置く米軍が「必ず阻止する」ため、「中国のフィリピン海封鎖は成功しない」と予想する。米国は今年4月、駐留米軍基地を5カ所から9カ所に拡大することでフィリピンと合意。これについて「中国潜水艦の侵入を防ぐだけでなく、有事には台湾への補給物資の供給ポイントを担う」と解説した。
 ◇直接助言も
 郭氏はまた、中国の大規模演習以降に「米台の軍事協力が質・量とも大幅に向上した」と指摘する。米国では2023会計年度の国防権限法が成立し、5年間で最大100億ドル(約1兆4000億円)の台湾向け軍事支援が決定。台湾軍主力部隊の米国での訓練のほか、台湾への弾薬庫設置、防衛産業のサプライチェーン(供給網)統合など、米台の新たな連携に向けた動きが進んでおり、「これまでの断片的な協力から、全体的な作戦の中で台湾に武器、技術、戦略のアドバイスを直接伝えるようになった」と述べた。
 台湾は地形的に上陸が極めて難しく、郭氏は「今の中国軍に上陸能力はない」とみる。米台協力の拡大で台湾侵攻のハードルはさらに上がるが「中国は『好機』を待っている」と指摘。例として「ウクライナや朝鮮半島情勢が急変し、各国の手が台湾に回らなくなった時」などを挙げた。
 演習後にリスクが高まった「米中間の偶発的衝突」も、台湾侵攻の口実になると警戒。中国側が台湾周辺の軍事的危機を強調し、来年1月の台湾総統選で中国と距離を置く民進党政権を交代させるため、世論操作を図る「認知戦」に利用する可能性にも言及した。 

(ニュース提供元:時事通信社)