昨年4月、北海道・知床半島沖で起きた観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故で、運輸安全委員会が7日に公表した最終調査報告書は、国の検査などチェック体制に関する不備も事故原因の一つと指摘した。
 報告書によると、運航会社「知床遊覧船」(斜里町)は2021年3月、同社の桂田精一社長(60)を「運航管理者」兼「安全統括管理者」に選任する届け出を北海道運輸局に提出。いずれも業務経験が資格要件で、桂田社長は「船舶の運航管理補助、小型船舶協議会会長」と職歴を申告した。
 同運輸局は要件を満たすとして、これを受理した。しかし実際は、桂田社長に実務経験などはなかった。さらに「小型船舶協議会」の名称は、「知床小型観光船協議会」の誤りだった。
 報告書は、運輸局が記載された業務経験の具体的な内容などを確認しなかったと言及。21年3月以降、同社は安全管理体制が存在しない状態になった。
 沈没の主原因としたハッチの不具合も、国の検査代行機関「日本小型船舶検査機構」(JCI)が事故3日前に外観点検のみを行い、開閉試験を省略していたため見逃していた。報告書は、事故当日の出航時にハッチが確実に閉鎖しない状況だった可能性が高いとし、「不具合を改善させることができなかった」と指摘した。
 JCIは、通信設備を衛星電話から携帯電話(au)に変更するとの知床遊覧船からの申請も承認したが、カズワンの航路ではauはほとんど圏外だった。報告書は事故で死亡した船長が陸上と交信する機会を失った可能性が高いと分析している。 
〔写真説明〕作業台船に引き揚げられ、海面に姿を現した観光船「KAZU Ⅰ(カズワン)」=2022年5月26日、北海道斜里町沖

(ニュース提供元:時事通信社)