2026/05/14
インタビュー
追跡調査中のハンタウイルス感染症
世界保健機関(WHO)が5月4日に大西洋を航行中のクルーズ船で乗客3人が死亡し、ハンタウイルスの感染が疑われると発表した。その後、日本人1人を含む乗員と乗客はスペイン領テネリフェ島で下船。各国で追跡調査が行われている。ハンタウイルスは、いったいどんなウイルスなのか。ハンタウイルスに詳しい北海道大学大学院の苅和宏明特任教授に聞いた。
ヒトからヒトへの感染はアンデス型のみ
苅和宏明 北海道大学大学院獣医学研究院 特任教授
専門はウイルス学と公衆衛生学。主にげっ歯類媒介性のハンタウイルス感染症について研究を進める。国内外でハンタウィルス疫学調査を実施。遺伝学的解析や感染を判別できる検出方法の開発なども行う。
ーー大西洋航行中のクルーズ船の乗客が、ハンタウイルスに相次いで感染し、死亡者も発生しています。
現在、クルーズ船での感染が注目されているハンタウイルスは、南アメリカ大陸に分布しているアンデス型です。ハンタウイルスはわかっているだけでも20種以上あり、それぞれ異なった種類のげっ歯類がウイルスを保有しています。人間はそのげっ歯類の排泄物を吸い込むことなどで感染し、発症します。
ハンタウイルス感染症としては、症状の違いで南北アメリカ大陸に分布するハンタウイルスが引き起こすハンタウイルス肺症候群(HPS)と、東アジアやヨーロッパ、ロシアなどユーラシア大陸に分布するウイルスが引き起こす腎症候性出血熱(HFRS)に分かれています。アメリカ大陸由来とユーラシア大陸由来のウイルスで症状が異なるのは、隔たれた大陸で別々に進化したからと考えられます。
20種以上が存在するハンタウイルスの中で、ヒトからヒトへの感染が確認されているのは、唯一、このアンデス型のみです。
ーー今後も感染者は増えるのでしょうか
今回はクルーズ船内という密な環境が拡大を招いたと考えられます。新型コロナウイルスほど感染力は高くありません。船内にいた期間の影響で感染者はもう少し増えるかもしれませんが、今の隔離対策で次第に抑えられるでしょう。アンデス型の分布地域は、主にアルゼンチンとチリです。散発的ですが過去に感染が拡大したケースがあります。しかし感染者数は最大で数十人ほどで、感染症としては小規模の発生です。世界的に流行することは考えられません。
ーー感染者のうち、すでに3人が死亡しています。危険なウィルスなのでしょうか
アンデス型を含むハンタウイルス肺症候群を引き起こすウイルスは、型によってばらつきはありますが30~50%の致死率です。症状の特徴は呼吸困難などの急性肺機能障害です。初期症状はインフルエンザに似ている高熱などで、明らかに他の感染症と区別できる症状が出るわけではありません。
ユーラシア大陸で見られる腎症候性出血熱の原因ウイルスだと致死率が10~15%になります。症状は高熱や出血、腎機能障害などを引き起こします。
確かに致死率だけを取り上げると、高く感じるでしょう。それでも正体不明の恐ろしい新規ウイルスが突如、出現したわけではありません。
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