2018/10/25
AIブームとリスクのあれこれ
■大切なのは「私たちがどんな社会を望むのか?」だ
しかし、いかに筆者個人がAIロボットによる人間大量失業時代の到来を割り引いて考えたとしても、人間の仕事が着実に機械に代替されていく時代はもう始まっていることも確かです。先ほどのシンクタンクの予測と提言によれば、今後従業員は、AI化できない部分の活動により多くの時間を割くことが求められるだろうと述べています。人間ならではの感情や認知、創造性に関わるスキルを磨けるような仕事のことです。また将来はAIの研究開発や調査の仕事が大幅に増え、いわばAI分野の仕事が花形職業になるため、とくに若い世代は前もって少しずつ準備を進める必要があるとも書かれています。
とは言え、こうした雇用対策への提言にはある種のよそよそしさを感じないわけにはいきません。いわば勝ち組としての視点からしか書かれていないのです。世の中には、いずれAIにとって代わられるであろう従来型の職業にやりがいや生きがいを見出している人々もたくさんいるでしょう。またいくら若い世代はAI業界を目指すべきと言っても、個人差や関心の度合い、得手不得手、能力の高低があることは避けられません。AI時代の波にうまく乗れなかった人々はどうなるのでしょうか。
思うに私たちが本当に考えなくてはならないのは、「将来AIに仕事を奪われる。どうしよう」と心配することではなく、将来「どんな社会を望むのか?」ということです。私たちはこれまで、右肩上がりの経済成長こそが至高の善なのだという認識を刷り込まれて育ってきました。しかしその結果が、過剰生産・過剰消費社会がもたらした地球温暖化であり、環境破壊であり、地球の海洋に広く漂うマイクロプラスチックが体内に蓄積した魚介類を食べざるを得ない状況に来ている今日の私たちの姿なのです。
世の中は私たちの望む方向へ進みます。SFのように至るところでAIが活躍する社会を望めば、そのような社会が実現します。しかしそれは私たち一人ひとりにとって必ずしも幸福な社会を約束するものではないことは、これまで見てきた通りです。
AIが社会に深く浸透すれば、一部の巨大IT企業に資本が集中し、そこに政治や軍事力にAIを利用したい政治権力と結びついて、一見すると理想的な社会だが、実態は徹底的な管理・統制が敷かれ、自由も外見のみであったり、人としての尊厳や人間性がどこかで否定されている社会であるディストピアの時代が到来するかもしれません。そのことを多くの科学者が懸念を示しています。映画「ターミネーター」のようにコンピュータが自己意識を獲得し、人間社会を支配することを心配しているのではありません。
AIに管理される社会が到来する前に、私たちがAI社会の成り行きをきちんと監視して、望ましい人間社会のあり方を維持するよう努力することが、最も賢明なやり方ではないでしょうか。AIはあくまでも私たち人間の活動をサポートするツールであって、人間の尊厳や生きる権利を侵害する存在であってはならないのです。
(了)
AIブームとリスクのあれこれの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/09/02
-
-
-
ゲリラ雷雨の捕捉率9割 民間気象会社の実力
突発的・局地的な大雨、いわゆる「ゲリラ雷雨」は今シーズン、全国で約7万8000 回発生、8月中旬がピーク。民間気象会社のウェザーニューズが7月に発表した中期予想です。同社予報センターは今年も、専任チームを編成してゲリラ雷雨をリアルタイムに観測中。予測精度はいまどこまで来ているのかを聞きました。
2025/08/24
-
スギヨ、顧客の信頼を重視し代替生産せず
2024年1月に発生した能登半島地震により、大きな被害を受けた水産練製品メーカーの株式会社スギヨ(本社:石川県七尾市)。その再建を支えたのは、同社の商品を心から愛する消費者の存在だった。全国に複数の工場があり、多くの商品について代替生産に踏み切る一方、主力商品の1つ「ビタミンちくわ」に関しては「能登で生産している」という顧客の期待を重視し、あえて現地工場の再開を待つという異例の判断を下した。結果として、消費者からの強い支持を受け、ビタミンちくわは過去最高近い売り上げを記録している。一方、BCPでは大規模な地震などが想定されていないなどの課題も明らかになった。同社では今、BCPの立て直しを進めている。
2025/08/24
-
-
-
-
ゲリラ豪雨を30分前に捕捉 万博会場で実証実験
「ゲリラ豪雨」は不確実性の高い気象現象の代表格。これを正確に捕捉しようという試みが現在、大阪・関西万博の会場で行われています。情報通信研究機構(NICT)、理化学研究所、大阪大学、防災科学技術研究所、Preferred Networks、エムティーアイの6者連携による実証実験。予測システムの仕組みと開発の経緯、実証実験の概要を聞きました。
2025/08/20
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方