2016/08/28
スーパー豪雨にどう備える?
台風とは、赤道付近の暖かい海水が蒸発し、発達した積乱雲の集合体となり、やがて回転運動を始めて強い雨や風を伴って移動する熱帯低気圧のことだ。熱帯低気圧の中心付近では強い風が吹いていて、これが風速17.2mを超えると「台風」に名称が変わる。台風が発達し、風速が44mを超えると「非常に強い台風」、54mを超えると「猛烈な台風」と呼ばれている。
一般的に台風が発生するには海面水温が28℃以上あることが条件と言われているが、現在は地球温暖化が西太平洋の気候パターンに影響を及ぼし、このままいくと2080年に海水温度が2℃上昇する調査結果もある。海水温がわずかでも上昇すると、台風に供給されるエネルギーは飛躍的に増大するため、風速が加速することが予想される。


風害だけで都市は壊滅状態
2005年に米国ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナは最大風速78mだったが、小石1つで住宅や店の窓が粉々に割れるなど、風害だけでも甚大な被害があった。中央防災会議は2010年4月、室戸台風(1934年)級の超大型台風による高潮が東京湾を襲った場合、死者は最大7600人出るとする報告書を公表したが、その室戸台風級でも最大風速は60m。通常、風速が70mを超えると車が横転し、木造家屋は倒壊の恐れが出てくると言われるが、80mでは高層ビルの窓ガラスが割れる可能性も否定できない。スーパー台風が日本を襲えば、その風の威力だけでマンションや高層ビルの窓は砕け落ち、小石や看板など町中のあらゆるものが凶器となって人々を襲う可能性がある。
また、非常に風速の速い台風では、それを起因として竜巻が発生する可能性もあるようだ。
もちろん豪雨や高潮の被害も甚大だ。一般的に台風の中心部は気圧が低く、気圧が1ヘクトパスカル下がると海面が1cm上昇する。台風による「吸い上げ効果」と呼ばれるもので、さらに台風の東側では南風が強く、海水を陸地に運ぶ。これが「吹き寄せ効果」で、高潮発生の原因となる。大潮などが重なると、さらに高潮の発生率が高まる。
「ハイエン」は台風発生時の中心気圧は1002ヘクトパスカルだったが、24時間で40ヘクトパスカル下がり、さらに次の24時間で65ヘクトパスカル低下して905ヘクトパスカルに。最終的に895ヘクトパスカルに達した。この急激な気圧の変化がさらに風速を加速させ、暴風雨と高潮がフィリピンを襲ったのだ。
スーパー台風が都心を襲えば、利根川、荒川の決壊や、想定以上の高潮により東京中に張り巡らされた地下街が水没する恐れもある。地下には電気・ガスなどのライフラインが走る共同溝がある。東京23区では、電線のおよそ半分が地中化されている。ここが浸水して機能停止した場合、ライフラインの復旧に半年以上かかると言われている。
首都直下地震に勝るとも劣らないスーパー台風への襲来には、今の段階から国を挙げての対策が求められる。
(了)
スーパー豪雨にどう備える?の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方