年に一度のお祭りから日常の備えへ
第3回 組織の隅々にリスク感度を染み込ませる方法
八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
2025/06/30
現場実務者が失敗と成功から紡いだ本物の危機対応
八重澤 晴信
医療機器製造メーカーで39年の実務経験を持つ危機管理のプロフェッショナル。光学機器の製造から品質管理、開発技術を経て内部統制危機管理まで経営と現場の「翻訳者」として活躍。防災士として国連グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンDRR分科会幹事も務める。
イベント型訓練だけでは記憶にも行動にも残りません。備えは日常に「しみ込む」仕組みから。
多くの組織では避難訓練が「年に一度のイベント」にとどまり、実際の備えには結びついていません。本節では、形式的な訓練を、実効性のある日常的な備えに変えるための視点と工夫を紹介します。
「また今年も訓練の季節が来た...」
毎年の危機対応訓練を前に、こんなため息が組織内に広がる光景は珍しくありません。私自身、かつては訓練企画側として「今年こそは全員が真剣に取り組む訓練に」と意気込み、本番では「思ったほどの成果が出ない」という失望を繰り返してきました。
なぜ多くの訓練は「やらされ感」に満ちた形式的なものになってしまうのでしょうか。その根本には、訓練に対する心理的な壁があります。参加者も企画者も、「失敗したらどうしよう」「恥をかきたくない」という不安を抱え、安全圏から一歩も出ない防衛的な姿勢に陥りがちです。通常業務とは異なる不慣れな状況での判断を求められる訓練は、多くの人にとってストレスの源になります。特に「専門知識がない」という思い込みや、「役割以外のことをやらなければならない」というプレッシャーが、訓練を「他人事」にしてしまうのです。
熊本地震の際、私たちは痛烈な教訓を得ました。年に一度の大規模な訓練を行っていたにもかかわらず、実際の危機の中で「訓練で何をしたか覚えていない」という声が多くの従業員から聞かれたのです。なぜでしょうか? それは、訓練が「点」として存在し、日常と切り離された特別なイベントになっていたからです。
大阪北部地震や北海道胆振東部地震での対応を経て、私たちは「継続は力なり」という原則に行き着きました。質の高い訓練を年に一度行うよりも、小さくても継続的な取り組みのほうが、実際の危機対応力を高めることを実感したのです。
第1回の記事では「面倒な訓練から本気の訓練へ」、第2回では「マニュアル通りでは太刀打ちできない危機への備え方」についてお伝えしました。この第3回では、訓練を「年に一度のお祭り」から「日常の備え」へと変え、組織の隅々にリスク感度を染み込ませる方法を共有します。特に、訓練に対する心理的障壁を取り除き、「他人事」を「自分事」に変えるアプローチに焦点を当てます。
あなたの職場での「年1回の訓練」、その訓練、“やってよかった”と心から言えるでしょうか?
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