2020/06/09
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
総合1位はノルウェー
総合スコアが最も高かったのは2019年版に続いてノルウェーで、2位はスイス(2019年版で3位)、3位がデンマーク(同2位)である。PDFでダウンロードできるサマリーによると、ノルウェーに関しては経済的生産性、安定した政治環境、汚職の少なさ、自然災害の状況、コーポレートガバナンスの状況などが高評価に貢献しているようである。スイスは前年から順位を一つ上げたが、特に政治的安定性、社会インフラの質、サプライチェーンの可視性が高評価につながっているという。デンマークは順位を一つ下げたものの、汚職の防止やサプライチェーンの可視化が特に優れていると指摘されている。
一方で総合的な評価が低かったのは、最も低い順に130位がハイチ、129位がベネズエラ、128位がエチオピアとなっている。これら3カ国の顔ぶれは2019年版から変わっていないが、128位と130位が入れ替わっている。エチオピアは2018年にエリトリアとの関係正常化が実現してから、汚職の防止と政治的安定性が改善されたと言及されている。ベネズエラとハイチの両国は自然災害に対する脆弱性が低評価の要因となっているようである。
各国間の比較を行う機能も2019年版から引き続き使えるようになっている。図2は多くの日本企業が進出しているアジア主要国の間で、直近5年間のスコアの状況を比較したものである(注2)。色の濃さは全体の中での大まかな位置を示しており、全体を 4分の1ずつに分けて、スコアが最も高い部分が最も濃い色となっている。中国は国土が広いため、自然災害リスクの観点から 3つのゾーンに分けられており、「CHINA ZONE 1」には強風の多い上海や山東省、広東省などが、「CHINA ZONE 2」には地震リスクが比較的高い四川省、河北省などが含まれている(注3)。
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/b/7/670m/img_b78704f3de631a147d1ecc6232f65752158812.png)
3つのカテゴリーを同時に展開できないため、図2では日本のメーカーが部品や原材料の調達先を検討する場面を想定して、「サプライチェーン」の内訳を展開させた状態を掲載しており、「経済面」と「リスクの質」については総合スコアに基づいた表示となっている。
こうして見ると、まずマレーシアで全体的に色が濃くなっているのが目を引くであろう。これは全てのカテゴリーにおいて、マレーシアが上位 50%に入っていることを示している(注4)。また、社会インフラの質やコーポレートガバナンスにおいて各国間でばらつきがあること、中国においてコーポレートガバナンスが改善傾向にあることなどが分かる。
前回も指摘させていただいた通り、このサイトに掲載されているデータからは大まかな状況や傾向しか分からないので、まずこのサイトで大まかな状況や全体感を把握した上で、より詳細な情報収集に進むというような使い方が有効であろう。
本調査のサマリーによると、このデータには新型コロナウイルスのパンデミックの影響は反映されていないようであるが、世界各国がパンデミックによるインパクトを受けた後に、どのように立ち直っていくかという過程において、このデータで表されているような各国のレジリエンスが寄与するであろう。本調査は恐らく今後も継続して行われると思うので、来年のデータにはパンデミックから立ち直る過程が観察され、スコアに反映されるかもしれない。今後も引き続き注目していきたいデータである。
■ 報告書本文の入手先:
https://www.fmglobal.co.uk/research-and-resources/tools-and-resources/resilienceindex
(調査結果はウェブサイト上で閲覧できるが、分析結果のサマリーや調査分析方法の詳細などがPDFファイルになっており、上のURLにアクセスしてページ右側の「RESILIENCE INDEX RESOURCES」という枠内の該当箇所をクリックするとダウンロードできる)
注1)それぞれ次の通り紹介させていただいた。
2018年7月31日掲載『第53回:各国のビジネス環境におけるリスクの総合的ランキング/2018 FM Global Resilience Index』
https://www.risktaisaku.com/articles/-/8448
2019年6月4日掲載『第71回:各国のビジネス環境におけるリスクの総合的ランキング2019年版/2019 FM Global Resilience Index』
https://www.risktaisaku.com/articles/-/17700
注2)シンガポールやフィリピンなども比較に加えたかったが、同時に比較できるのが8カ国までなので、今回は含めなかった。
注3)実際にマップを見ていただくとお分かりいただけると思うが、自然災害リスクの状況に応じて分けられているので、地理的に連続していない地域が同じゾーンにまとめられている。
注4)「経済面」と「リスクの質」の中に含まれる項目の一部が、上位50%に入っていないが、それぞれのカテゴリーごとの総合スコアとしては上位50%に入っている。
- keyword
- リスク評価
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方