2020/07/14
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!

サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標
著者はこれらを含む153の論文の内容を精査して統合し、サプライチェーン・レジリエンスのパフォーマンス指標のフレームワークを図3のように構成した。まず最上位にPonomarovとHolcombによる論文(注6)で示されている3つの側面が置かれ、この下にサプライチェーン・レジリエンスに求められる8つの能力(capabilities)が関連付けられている。さらにその下には11のパフォーマンス指標が配置されている。なおパフォーマンス指標の枠内に書かれているのは、個々の論文で挙げられている具体的な指標の例である。

著者がこのフレームワークにたどり着くまでには膨大な時間と労力が費やされたと思われるが、今後は多くの研究者がこのフレームワークをさまざまな事例と突き合せることによって、このフレームワークの検証が進められるかもしれない。そう考えれば本論文は、今後のサプライチェーン・レジリエンスの研究をさらに進めるための重要なステップとなる可能性があるであろう。
また、このフレームワークは過去の153もの文献の集大成とも言えるものであるから、たとえ未検証であっても相応の妥当性が期待できるとも考えられる。したがって企業においては、自社のサプライチェーン・マネジメントの状況をこのフレームワークに当てはめてみることで、改善すべき課題が見えてくるかもしれない。
本稿では掲載を省略させていただくが、本論文ではこのフレームワークに含まれる8つの能力と11のパフォーマンス指標について、どの論文で言及されているかが全て表で示されており、この分野における論文のカタログのようになっている。また図2のところでも説明させていただいたとおり、本論文ではサプライチェーン・レジリエンスの評価に関する研究の歴史がつづられている。正味12ページ半の本論文を読めば、サプライチェーン・レジリエンスの評価やパフォーマンス指標に関する研究の経緯や現状があらかた分かるという大変貴重な論文だと思うので、この分野にご興味のある方にはご一読をおすすめしたい。
■ 報告書本文の入手先(PDF 27ページ/約2.8MB)
https://doi.org/10.1080/00207543.2020.1785034
注1)Yu Han, Woon Kian Chong & Dong Li (2020) A systematic literature review of the capabilities and performance metrics of supply chain resilience, International Journal of Production Research, DOI: 10.1080/00207543.2020.1785034
注2)https://www.tandfonline.com/toc/tprs20/current
注3)第51回:組織のレジリエンスの概念や評価手法に関する系統的レビュー
What we know and do not know about organizational resilience
https://www.risktaisaku.com/articles/-/7319 (2018年7月3日掲載)
注4)Rice, B. J., and F. Caniato. 2003. “Building a Secure and Resilient Supply Network.” Supply Chain Management Review 7 (5): 22–30.
注5)Datta, P. P., P. M. Allen, and M. G. Christopher. 2007. “Agent- Based Modelling of Complex Production/Distribution Sys- tems to Improve Resilience.” International Journal of Logis- tics Research and Applications 10 (3): 187–203.
注6)Ponomarov, Y. S., and M. C. Holcomb. 2009. “Understanding the Concept of Supply Chain Resilience.” The International Journal of Logistics Management 20 (1): 124–143.
注7)Hohenstein, N. O., E. Feisel, E. Hartmann, and L. Giunipero. 2015. “Research on the Phenomenon of Supply Chain Resilience: A Systematic Review and Paths for Further Inves- tigation.” International Journal of Physical Distribution and Logistics Management 45 (1/2): 90–117.
注8)Chowdhury, M. M. H., and M. Quaddus. 2016. “Supply Chain Readiness, Response and Recovery for Resilience.” Supply Chain Management 21 (6): 1–46.
- keyword
- サプライチェーン
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方