2017/10/31
オフィスの防災対策を見直せ!
企業の防災意識指標の1つに従業員の「家庭内備蓄」を
「くじ引き演習」など、独自のユニークなBCM(事業継続マネジメント)を展開する株式会社ディスコBCM推進チームリーダーの渋谷真弘氏は、「これからのディスコの指標の1つに、従業員が家庭内でどれだけ備蓄をしているかを取り入れていきたい」と話す。
従業員の防災意識が高まれば、自然と家庭内の備蓄にまで及ぶはずであり、それが翻って企業の事業継続力を向上させるという考えだ。家族を守れない人に組織を守ることはできない。ここで、家庭の備蓄について考えてみたい。
地震が発生した場合、家庭でもっとも重要なことはまず「家が倒壊しないこと」だ。阪神・淡路大震災では地震発生から2週間の間に被災地全体で約5500人が亡くなったが、神戸市の監察医が神戸市内で亡くなった犠牲者の死亡推定時刻を調査した結果、実に9割以上が、地震が発生してから5分〜15分の間で死亡したことが分かっている。すべて、家屋が倒壊したり家具の下敷きになることによる「圧死」によるものだ。備蓄の前に、家庭でもっとも大事な防災対策はまず「耐震補強」であることが分かる。しかしここでは、家屋の倒壊は免れたとして、在宅避難する場合の備蓄について考えたい。
東京都は2015年5月29日、「自然災害に備えた自宅での備蓄について〜都民の備蓄推進プロジェクトの展開〜」を発表した。それによると、家屋が倒壊するなどして避難所で生活する人は220万人とされ、そのほか約1000万人は在宅避難で数日間しのぐことが大前提となっている。このプロジェクトでは「ローリングストック」を推奨している。特別な備蓄品のみで備えるのではなく、可能な限り家庭内で日常使いするものを普段から少し多めに購入し、日常の中で消費しながら備蓄する考え方だ。
地震が発生し、家屋が倒壊しなかったとして最も生活に不自由するのはライフラインの途絶だ。現在の想定では、首都直下地震などでライフラインが被害を受けた場合、被災前の95%まで回復するためには電力7日間、通信14日間、上下水道30日間、都市ガスは60日間かかると算出されている。東京都がモデルケースとして挙げている家庭内の備蓄品は以下のようなものがある。
ただし、筆者として少ないと感じるのは簡易トイレの個数だ。マンションなどでは水を備蓄しておいて流せば、トイレの問題は解決できると考えている人がいるが、排管の被災状況によって水が流せない場合も多い。
一方、企業と違い、家庭であれば家族分の簡易トイレの保管場所を取ることは難しくない。トイレを我慢することは人体に深刻なダメージを与えるため、できれば1人1日8回分は用意してほしい。人間は寒くなると頻繁にトイレを使用する。例えば暖房が停止した屋内、吹きさらしの屋外であれば少なくとも3時間おきに尿意・便意が訪れる可能性がある。この傾向は昼夜関係なく、高齢者になるとこの数はさらに多くなる傾向にあるという。
東京都のモデルケースの場合、乳幼児はおむつでよいとして、大人3人が1日8回使用すると計算して、3日分で50回分を用意しておけば安心感は増す。単純計算すると72回だが、小便1回だけで簡易トイレを1つ使いきることはない。簡易トイレは水分に関して非常に効率良く吸収するので、小便だけであれば2〜3回は問題なく使える。現在は2台トイレがある家庭も珍しくないので、大便用と小便用を分ければさらに効率良く使用できるだろう。家族で、自分の家に合った災害時のトイレの使用法について話し合ってほしい。
停電が発生した時の冷蔵庫を使う技も紹介しよう。地震により停電が発生した場合、長期に渡る可能性がある。この時に、身の安全が確保できたら冷凍室にあるものを全て冷蔵室に入れ、ガムテープなどで一旦封じてしまう。冷凍された食材を冷蔵庫に入れ、さらに冷蔵庫内の気密性を上げることで、夏場であっても1〜2日は冷蔵庫内の冷気が保持される。初めの2日は備蓄食料でしのぎ、その後、冷蔵庫内の食料を消費するのだ。その時までには冷凍食料も調理がしやすくなっているだろう。
東京都では11月19日を「備蓄の日」に定めている。年に1度は、家庭でぜひとも備蓄について話し合い、見直してほしい。
オフィスの防災対策を見直せ!の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方