2017/11/27
オフィスの防災対策を見直せ!

1995年の阪神・淡路大震災でも2011年の東日本大震災でも、そして2016年の熊本大地震でも、「避難所で困ったこと」として上位に挙げられたのは食料でも暖房でもなく、トイレでした。この国では20年以上前から、災害時のトイレに困っているのです。建物内のトイレに「大便はトレイに紙を敷いて、紙のまま汚物入れに入れてください」という張り紙がありました。時間が経つにつれてメッセージが書き足され「必ず守ること!」などと口調が強くなってくる。守れない人が多いのでしょう。しかし、私たちは通常、1日7回から8回、もしくはそれ以上、トイレに行きます。災害時に、いつもと異なる方法で排泄するのはなかなか難しいのです。

発災後、6時間で約7割の人がトイレに行く!
今日はBCP(業務継続計画)の観点から災害時のトイレについて説明します。その前に、もう少しデータを見ていきましょう。こちらは、宮城県気仙沼の方々に協力してもらったデータです。6時間で約7割の人がトイレに行きたくなったと回答しています。6時間後というのは、水も飲んでいないでしょう。もちろんご飯など食べていない。おそらく津波等から逃れて身の安全を確保し、避難所等に身を寄せているくらいなのではないでしょうか。
BCPの研究で著名な東北大学防災社会システム研究分野の丸谷浩明教授の研究結果によると、企業のBCPでは発災後3時間以内に施設の安全確認、6時間以内に周囲の安全確認を取らなければいけないとしています。もし安全でなかった場合、一時滞在施設に誘導することも6時間以内。このように、様々なことをしなければいけない発災後6時間で、7割の人がトイレに行きたくなるのです。あっというまにトイレは汚物だらけになってしまう可能性が高いのです。
災害時、オフィスでトイレができないのは安全配慮義務違反
災害時にトイレ環境が悪くなると、当然、トイレを我慢しようとする人が出てきます。避難所でも、トイレに長蛇の列ができたり、男女兼用だったり、夜は暗くて怖かったり。そういう時には、なるべくトイレを行かないようにするために、人は食べ物を食べなくなり、水も飲まなくなります。そうすると脱水症状になったり血圧が上がったり、免疫力が低下したりして、あっという間に体調を崩します。ウィルス等に感染しやすくもなります。さらには基礎疾患が悪化し、脳梗塞や肺血栓症などが発生する可能性もあります。

発災後、トイレに行けない状況の中で、従業員に応急復旧させたり避難行動をサポートさせることは、健康を害する恐れがあります。災害関連の裁判で著名な弁護士の中野明安先生によれば、災害時にも企業に安全配慮義務はあるそうです。企業がトイレ対策の必要性を認識しながら、災害時のトイレの準備を怠り、その結果従業員の健康が悪化したとしたら、それは「企業の安全配慮義務違反」になると考えられます。
地震があったら、すぐに携帯トイレに切り替える!
それでは企業の皆さんは何を準備したらよいのでしょうか。まず、携帯トイレを準備してください。地震が起きたら、まず携帯トイレを設置する。携帯トイレとは、ビニール袋タイプのトイレで、水が出なくなった便器に設置して、袋の中に排泄します。袋の中に吸水シートもしくは、凝固剤を入れて大小便を固めます。住宅でも同じですが、まずトイレの水が出るか出ないかにかかわらず、とにかく真っ先に便器に設置してほしいと考えています。給排水機能を調べた結果、水洗トイレを使えるのであれば、携帯トイレを外して水洗トイレの使用を再開すればいいのです。逆はできません。
一般的なビルは、各階に水を配水するためにポンプを使います。停電するとポンプが使えなくなります。つまり、多くのビルでは停電すると水が使えなくなります。なかには屋上に高置水槽を持つビルがあり、その場合は断水しても水が出る可能性があります。最新式の水洗トイレは一回の洗浄水量が3.8Lですが、市場に普及しているのは6~8Lのタイプではないでしょうか。昔の便器ですと10L以上なんてものもあります。一回につき500ミリリットルペットボトル20本分ですね。災害時に、飲める水をトイレにたくさん使ってしまうのは、とてももったいないですよね。
排水面でも問題があります。ビル内のトイレは排水管でつながっています。一般的に縦管は壊れにくいと言われていますが、地震が起きてみないと分かりません。一方で、建物から出たあとの敷地内の排管は、地盤沈下や液状化などの被害を受ける可能性が大きいです。ビルの敷地内にある排水管は私有地なので、皆さんが責任を持たなければいけない。公共下水道が復旧しても、敷地内の排水機能を確保できなければ水洗トイレは使えません。
もちろん、携帯トイレにも課題はあります。使えば使うほどゴミが出ることです。これは地方自治体によって処理・処分方法を確認することが必要ですが、基本的には可燃ゴミになると思います。オフィスの場合、使用済の携帯トイレを保管する場所を決める必要があります。もし、避難拠点などが近くにあってマンホールトイレや仮設トイレが設置されるのであれば、昼間はそれらを利用できるかどうかを把握し、利用できる場合はトイレを分散利用することでごみを減らす方法を考えておくことも大事です。

トイレ対策のポイント。トイレの司令塔を明確に!
みなさん、トイレに1日何回行くか数えたことがありますか?私は平均7回でした。ただし、災害時は今と同じように食べたり飲んだりはできないと思いますので、少し減らして仮に5回で計算したいと思います。また備蓄は、できれば1週間分は備えてほしい。東日本大震災の時には30日間、水洗トイレが使えなかった地域もありますので、最低でも1週間くらいは考えていいと思います。そうすると、私は4人家族ですので、
4人 × 5回 × 最低 7日= 140回分
このくらいは備えていてほしい。だいたい小便は1回200㏄と言われています。もし家族で小便くらいは連続して使用できるというのであれば、効率的に備えることもできると思います。ぜひ一度、家族で「トイレ会議」を開いていただければと思います。
数量の算定方法は、企業も同じです。オフィスに留まる従業員数を想定して、算出してください。
以下は、企業の災害時のトイレ対策のポイントをまとめたものです。
② 災害用のトイレの必要数を算出する
③ 複数の災害用トイレで備える(量と質)
④ 防災トイレ計画を作成する
⑤ 災害用トイレの使用ルールを共有する
(衛生面に配慮したトイレ掃除の方法も含めて)
大事なことは、「トイレ対策の司令塔」を明確にすることです。あらかじめ計画を策定し、備蓄数を算出し、災害が発生したら計画通りに対応する。震災の発災直後は、水洗トイレに携帯トイレを設置する。これらのことは一人でできません。そのために全体をコーディネートする司令塔が必要なのです。災害時のトイレ情報はこちらに詳しく掲載していますので、ぜひ一度ご覧になってください。また、12月16日~17日に、防災トイレ計画の作成方法を学ぶ「災害時トイレ衛生管理講習会(計画編)」を開催しますので、ご検討頂ければ幸いです。
■災害用トイレガイド(日本トイレ研究所)
http://www.toilet.or.jp/toilet-guide/
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