国立研究開発法人防災科学技術研究所理事長の林春男氏と、関西大学社会安全センターセンター長の河田惠昭氏が代表を務める防災研究会「Joint Seminar減災」(事務局:兵庫県立大学環境人間学部教授 木村玲欧氏)の2021年第1回シンポジウムが4月30日に開催された。テーマは「東日本大震災から10年、地震学の進展と課題」で、東京大学大学院情報学環教授の酒井慎一氏が講演した。3回に分けて講演内容を紹介していく。第1回は、東北地方太平洋沖地震において何が誤算だったか。

本研究会は、防災科学技術研究所「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」および、セコム科学技術振興財団「幅広いステークホルダーの防災リテラシー向上を目指す「防災・減災教育ハブ」の構築」の成果・研究費の一部を利用して実施しました(双方とも担当者は木村玲欧)。厚く御礼申し上げます。

ZOOMで講演する酒井氏

 

何が誤算だったのか

10年前の私は、マグニチュード9.0の地震が起きるとは思っていませんでした。その数年前にスマトラ沖でマグニチュード9.1の地震が起きましたし、世界的にも何回か起きているので、起きてもおかしくないのですが、そういう発想が全くありませんでした。今振り返ると、地震が発生する仕組みを何となく「分かった気になっていた」のが反省点だと思います。

皆さんご存じのとおり、地震とは地下の岩盤の破壊現象です(図表1)。地下に何がしかの力が働いて岩石が変形し、その変形に耐えられなくなって岩石が壊れるときに周辺に地震波を放出します。例えば図表2のように、寒天を横から押す実験行うと、すぱっと切れて断層ができます。

これは地震の発生を模式的に表現していて正しいのですが、本当にこれでいいのかというと、いろいろと課題があります。この実験では、最初から寒天に切れ目を入れておいて、そこをくっつけて押したため、すぱっと切れているのです。切れ目が無い場合は、必ずしもこのようにきれいに断層面ができません。では地下の場合はどうなっているかというと、何もないところでは、きれいにズレません。地下には活断層という切れ目があって、そこを境にして動きます。あらかじめ切れ目が存在するところに力が働くから、地震としてズレ動くのです。しかし、現実は、これほど単純ではありません。活断層の位置や形状は分かっているのか、断層の端はどうなっているのか、プレート境界はどこまで破壊が及ぶるのかということは、何となく分かっているけれども明確にはなっていません。地震はなぜ起こるのか、活断層とは何かといったときに、教科書には図表3のようなことしか書かれてなく、不確かな部分については説明が不十分です。