率直な謝罪によって「炎上」している世間の批判の鎮静化を図ることが何よりも重要です

1. はじめに

前回は不祥事が発生した場合の公表の問題について、公表義務の内容、公表するか否かの判断基準、そして公表するタイミングなどについて説明しました。不祥事が発生した場合、公表という問題は避けては通れません。その対応を誤ると、訴訟リスクが高まるほか、レピュテーションの致命的なダメージによって会社の存続さえも危うくなります。さらに、不祥事の公表というのは、突発的に発生する「有事」における対外的な行動であるため、冷静さを欠き、ミスを誘因する潜在的危険性が常にあります。   

その意味で、不祥事公表を成功させるためには、「有事」を乗り切るための「平時」の備えが肝要です。有事になってから高額なコンサルタントを雇って、慌てて再建を取り繕っても成功しません。今回は、「有事」になった後で検討していては手遅れになる不祥事公表の具体的な手法、特に、公表する場合の媒体の選択や記者会見の実施要領について説明し、さらに、記者会見の成功事例と失敗事例を紹介することで、不祥事公表の重要性を浮き彫りにし、リスク・マネジメントの重要性について改めて理解して頂く機会にしたいと思います。

 

2. 不祥事公表から見た社内調査の進め方

これまで不祥事が発生した場合の社内調査の手法について、電子メール調査やヒアリングなどを中心に解説してきましたが、こうした社内調査の成果如何によって公表の「質」は決まります。的確でタイムリーな公表は、不祥事の社内調査が成功して初めて可能になります。換言すれば、社内調査を行う時、公表の問題を頭に入れて進めていかなければなりません。公表は株主、債権者、一般消費者等ステークホールダーや世間一般に対する不祥事原因等の公開である以上、世間の注視、関心、疑問、期待に応えることのできる社内調査が求められるのです。このように考えてくると、おざなりな社内調査はできません。  

社内調査は、証拠破壊を防ぎ、関係者のプライバ シーを守るため、密行的に行われなければいけませんが、社内調査に携わる者は常にパブリックな目を意識して調査を進める姿勢が必要です。例えば、損失隠しや粉飾決算といった不祥事の原因究明に関し調査を進めていったところ、一部経営幹部のプライベートな行為が関わっていたことが判明した場合、もし仮に、プライバシーに配慮して、あるいは人事報復を恐れて真相解明の手を緩め、中途半端な調査に終わってしまうならば、独自の情報ルートで当該幹部の関与事実を掴んだ記者によって、記者会見において徹底した追及にさらされるでしょう。  

社内調査の実施マニュアルを社内で作成するときも、記者会見等の公表の問題を念頭に置いて作成するとよいでしょう。様々な不祥事例における記者会見を研究 し、記者によってどのような質問がなされる傾向にあるか、どのような事実を公表した場合、記者会見が成功しているかを見極め、逆算的に社内調査事項を決めていくのです。その要点を示しておくと、記者会見等の公表において必ず指摘される事項は次の5点です。

 (1) 不祥事発覚までの経緯 

いつ、どのような経緯で不祥事が発覚したのか、 また、不祥事が発覚してから会社としてどのように対応したのかについて、記者会見では必ず質問を受けます。不祥事の発覚の端緒に関しては、社内の内部統制が機能していたかが問われます。会計監査制度、 内部通報制度を含めた不祥事の探知装置が普段から機能しているかを確認検証することの重要性を示しています。また、不祥事発覚後は、迅速な緊急対策本部や社内調査体制の構築が求められます。

 (2) 不祥事の原因

不祥事の原因調査が社内調査の中心をなすことは改めて言うまでもありません。 直接的な原因だけではなく、背景要因や不祥事を誘発した社風や企業風土についても、突っ込んだ調査分析が必要となるでしょう。

 (3) 不祥事の危険性および社会的影響、二次被害の可能性 

記者会見等の不祥事公表では、現に発生した不祥事そのものよりも、その危険性の継続の有無、二次被害の可能性に関心が置かれることがあります。典型的には原発事故などがそうでしょう。この種の事故公表は、原因の開示というよりも、危険性の発信という意味合いが強いです。当然、事故対応に当たっても、 原因調査と同時に被害拡大阻止のための緊急対策が中心となります。

 (4) 過去の類似事案、類似事故の有無・態様

よく記者会見で、「前にも同じような事故があったのではないですか」「そのような問題で過去に消費者からクレームを受けたことはないのですか 」 などといった質問を記者から受けることがあります。これは、 普段からの情報管理の大切さを教えてくれます。クレーム履歴や内部通報の履歴、過去の不祥事履歴、過去の事故情報といった情報について、時系列に整理してファイリングし管理しておきます。このような作業は、不祥事が発生してからでは遅いのです。

(5) 再発防止策

不祥事の発生原因を踏まえた再発防止策も、不祥事公表にあって大きな比重を占めます。ただ、付け焼刃的な再発防止策では、かえって会社の信用を落とすことにもなりかねないので、重大不祥事にあっては特別な再発防止検討委員会を設置して、継続的な再建に取り組むとの発表の方がむしろ適切な場合もあるでしょう。  

以上の5点については、記者会見等で必ず質問される事項で、社内調査において絶対に外せない調査事項あると言えます。こうした事項を中心に社内調査を進めて行き、その総決算が不祥事公表となるのです。