2016/05/24
誌面情報 vol55
戦略的な被災企業の支援へ
熊本地震は自動車や半導体会社などの産業集積地を直撃した。供給網の寸断、ラインの停止は被災地だけの問題にとどまらず、瞬く間に全国、そして世界へと影響が及ぶ。そして、こうした産業が衰退することは、地域経済そのものの疲弊へとつながる。行政に求められるのは戦略的な産業復旧の支援だ。名古屋工業大学大学院教授の渡辺研司氏にどのような支援が必要か解説いただいた。
現地での行政機関・自治体担当者へのヒアリングを通じて、両者とも、企業の被災状況や、サプライチェーンの途絶といった動的(dynamic)な情報については、断片的にテレビ・新聞報道から入手していただけで、間接情報に基づいた一定の状況認識にとどまっていたことが分かった。
九州では、1970年以降、政策的に自動車産業、半導体産業を誘致してきた。このため、詳細レベルの企業情報が静的(static)情報として整備済みで毎年更新もされている。しかしながら、企業間の取引の流れ(商流)や、商量、頻度、手段、ルートやサプライチェーンにおける位置付けと、他社代替可能性などの情報で上記の動的・静的情報を有機的につなげる枠組みや仕組みは欠如していたように思う。
また、多くの静的情報は公開されているものの、電子化が十分とは言えない(例えば各種地図に関しては、カラー印刷地図の作製が目的でGIS位置情報として共有・活用できる状態にない)状況にあった。そのため、県では、県商工部門が把握している個別企業の被災状況などについては、災対本部会議ではなく知事他には個別レクチャーを実施していた。
一方で、知事以下、各部門では、住民対応に追われ、商工部門でも余裕がない状況だった。
また、個別企業においても、それぞれが復旧作業に追われる中、自治体や複数の行政機関などから被災状況に関する電話・メール・アンケートなどが投げかけられるので現場は多忙さを増しているようだった。
こうした状況から行政面での課題を整理するとすれば、①地域内の企業・産業活動の商流についての情報入手が困難なため、静的情報の確認と限定的な現状把握にとどまったこと、②県商工部門(産業振興、企業立地など)は住民対応業務の優先により、発災後しばらくは企業・産業の復旧支援の業務に手が回らなかったこと、③ナショナルブランドの大企業における生産や営業といったアウトプットの復旧が、必ずしも熊本域内産業活動の残留、地元企業との取引維持につながらないという危機意識を自治体・行政機関の職員が持つ余裕がなかったこと、などが挙げられるのではないか。
誌面情報 vol55の他の記事
おすすめ記事
-
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方