「リスク対策.com」VOL.56 2016年7月掲載記事

対策本部長として指揮を執った代表取締役社長の鈴木直明氏(中央)と対策本部要員として対応にあたった取締役執行役員の布留川朗氏(左)、執行役員の鎌田光郎氏(右)。机の上には工場の配置図が置かれ、火災、爆発、漏洩、負傷者などと書かれたカラーマグネットで被害状況が示せるようになっている
建設時から布田川・日奈久断層の存在を把握し、さらに地震などの自然災害を想定して繰り返し訓練をしてきたことで熊本地震の被災から早期に復旧した工場がある。TACフィルムと呼ばれる、液晶ディスプレイの構成部材である偏光板の保護膜を生産する富士フイルム九州だ。フィルムの厚みがサブミクロン(1万分の1㎜)単位でのズレも許されない精度の精密設備を持ちながら、東京にある富士フイルム本社の災害対策本部と連携し、発災から2週間で生産を再開させた。


富士フイルム100%出資の生産子会社である富士フイルム九州は、熊本市街地から10㎞ほど北東の熊本県菊陽町に位置する。フラットパネルディスプレイ材料事業の新たな生産拠点として2005年4月1日に設立された。

同社が製造するのがTACフィルムと呼ばれる、液晶ディスプレイの構成部材である偏光板の保護膜(商品名はフジタック)。光学的に歪みが無く、透明性に優れ、薄く均一で耐久性があるなど優れた特性を持っており、あらゆる液晶表示に使われる偏光板を保護する。富士フイルムグループ全体で、TACフィルムは世界7割のシェアを誇り、富士フイルム九州はその6割を担う。単純に計算して世界市場の4割がこの工場で作られていることになる。仮に長期に工場が停止すれば、液晶を扱う世界中の製品の製造に影響をもたらす。

工場は大きく4棟で構成され、それぞれ生産ラインが2本ずつ整備され計8ラインとなっている。地盤調査に基づき、地震災害に強い耐震設計で建設された。当初から布田川・日奈久断層の存在も把握し、想定震度も算出していたという。さらに2011年の東日本大震災以降は、富士フイルムグループ全体でBCPの構築を進め、年2回のグループ全体の緊急情報共有訓練を行い、富士フイルム九州では、防災訓練、消火訓練なども繰り返し行っていた。また、安否確認訓練は3カ月に1回の頻度で実施していたという。

同社代表取締役社長の鈴木直明氏によると、「東日本大震災以降は、災害への意識が高まり、近年では、夜間の地震を想定した災害対策本部メンバーの参集訓練なども行っていた」とする。今回の熊本地震では、その成果が見事に発揮された。

写真を拡大  富士フイルム九州本社工場(左)と、工場から数百メートル離れた場所に設置されている対策本部