2018/12/21
「災」の2018年、識者が振り返る

安全に必要なもの削減の結果
11日、内閣府を中心とした政府の中央防災会議は南海トラフ沿いで地震など最初の異常が起こった場合の対応について報告書のとりまとめを行った。M(マグニチュード)8.0以上の地震が起こった際は、被害がなかったエリアでも続く地震に備えて津波の危険のあるエリアから1週間避難することなど、最初の異常があった際の大まかな方針をまとめた。このとりまとめを行ったワーキンググループ(WG)の主査である名古屋大学教授・減災連携研究センター長の福和伸夫氏が今年の災害を振り返った。
福和氏は今年の相次ぐ災害を振り返り、まず「集中・効率化を進めすぎている。大局観がなく、社会全体の安全をおろそかにしている」と現在の社会構造の問題点を指摘した。「都市部では鉄道の相互乗り入れや運行の広域化が進んでいるが、6月の大阪北部地震では鉄道の運休が広範囲に及んだ。また高層ビルやマンションが増加したが、この地震では約6万6000基のエレベーターが停止した。大阪には約7万6000基あるとされるので、ほとんどが止まった。首都直下地震であれば、東京の約16万基のうち大半が止まってしまうかもしれず、こうなると閉じ込めの際の救助は困難だろう」と大都市の脆弱性に懸念を示した。
関連して「地方も含めて都市化が進んでいるエリアでの土地利用がひどい」と福和氏は述べた。平成30年7月豪雨で洪水や土砂災害のあった場所、9月の北海道胆振東部地震で液状化や土砂崩れがあった場所はハザードマップで被害が予測できる場所だった。
また「本来必要なはずの人・時間・金をカットしすぎて、日本全体に余裕がなくなっている。組織の縦割りも進んでいることにより安全の全体像が見えてこない」と語った。北海道胆振東部地震では道内全体が停電するブラックアウトに見舞われたが、福和氏は「電力自由化などもあり、北海道電力が苫東厚真火力発電所で需要の半分強の発電をする集中化を行ったことが要因」と指摘した。さらにインフラについては「交通や電力など、相互依存が進みボトルネックとなる箇所が増えている。9月の台風21号での関空連絡橋の破損や平成30年7月豪雨での広島県呉市の孤立では、インフラ寸断への備えを改めて感じさせられた」と警鐘を鳴らした。
「災」の2018年、識者が振り返るの他の記事
- 耐震化へ行政は住民寄り添い悩み解決を
- 「災」の2018年、識者が振り返る
- 集中・効率化に歯止め、災害備え変革を
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方