■これだけは考えておきたい店舗段階での対応 

企業の危機管理/災害対策の標準的なプロセスとして、図1の4つの分類は、一般的なものであり、小売業においてもこのような流れを踏まえて対応を検討しておくとよい。

このように整理した場合、小売業では、店舗における初動対応と応急対応の重要性が特に高い。お客さまの負傷は、その後の店舗運営にも大きく影響を及ぼすためだ。しかも、パートやアルバイトを主体とした店舗運営の中で、災害時にお客さまに適切な対応を行うことは難しく、日ごろから教育や訓練を進めておく必要がある。考えておくべきポイントとして代表的なものをあげる。

ポイント1:従業員とお客さまの安全確保手順を明確に! 
従業員とお客さまに怪我がないかを確認し、一時避難していただくことが対応の基本となる。誰でも漏れなく避難時の点検ができるように、トイレの確認などの抜けがちなポイントを網羅した店内の避難時確認マップなどを作っておくとよいだろう。 

また、発生した事象によっては、店舗外への一時避難ではなく、店内に待機する方が安全と判断される場合がありうる旨を教育することをお勧めする。水害が発生している最中、マニュアルに従って、お客さまに店外への退出を求め、後日苦情になった事例がある。冗談のようであるが、お客さまにとっては深刻な問題となる。

ポイント2:現場スタッフによる被害確認の手順を明確に! 
発災当初は専門知識のない各店舗のスタッフが対応することもあるため、被害確認を行なうための手順書やチェックリストを整備しておくとよいだろう。 

一例として「水道は、水が使えるだけでは確認として不十分であり、水を出している状態でメーターが動き、受水槽に給水が行われていることを確認する」などが挙げられる。本部の施設担当者が、店舗レベルで最低限確認してほしいことを、店舗スタッフでもわかるような形で取りまとめておくことをお勧めする。

※1 「暮らしは私たちが守る」田口香代著、(商業界)の記述を参考とした。
※2 日経BPコンサルティング【震災後の定期調査】「企業名想起調査(8月度)」http://consult.nikkeibp.co.jp/consult/news/2011/0902bj/

■これだけは考えておきたい本部の対応
店舗が一刻も早く営業を再開するためには、店舗の対応に併せて、本部が適切な支援を行うことが欠かせない。図2は、ある小売業の災害時の対応の考え方であるが、対応にぶれがないよう、方向性はトップダウンで示すことが望ましい。

ポイント1:応援部隊を早期に派遣!
被災した店舗では、清掃や売場作りなど通常業務に加え、パートアルバイトも含めた従業員の安否確認など災害時に・発生する各種対応を行う必要がある。しかし、店舗におけるパートアルバイト比率は年々高まる一方であり、・災害時の出勤が望めないケースもある。このため、他の店舗や本部から被災店舗へ応援部隊を継続的に派遣する必要がある。

ポイント2:水、簡易トイレなど必要物資を確保! 
トイレの処理、店舗の清掃など、被災後の店舗運営は、清潔な水がなければ困難である。このため、断水が続く場合は、給水車や簡易トイレなどの代替手段を講じる必要がある。また、被災した店舗の片付けに必要な雑巾、洗剤、軍手といった物資も、被災地では入手困難になる。各店舗の必要物資を把握し、被災地外で必要物資を調達し、速やかに送付する対策が望まれる。

ポイント3:お客さまのニーズ変化に対応!
災害が発生した後、被災地域ではお客さまの購買行動も大きく変わる。例えば、発災直後はすぐ食べられる菓子パン、惣菜パン、カップ麺などがよく売れるが、生魚、生麺など調理が必要な食品は売れなくなる。公的支援が展開される時期になると、飽きが出てきた菓子パンなどに代わり、炊き出し用の食材やのり、ふりかけなどの売り上げが上がるといわれている。 

このような消費者の購買行動の変化を事前に把握できれば、対策を早急に打ち出すことができるようになる。過去、自社の店舗が被災した経験があれば、当該店舗における売上データは貴重な資料となる。中堅中小企業でも、公刊されている書籍・雑誌の記事や、共同仕入れ会社から提供される情報などを活用し、災害時の売れ筋を事前につかむことは可能である。

■調達や物流面での対策が今後重要に
事業継続は自社のみの対策で可能になるわけではない。東日本大震災でも、大手小売業では、トップが自らメーカーとの商品供給交渉に臨むとともに、自社の物流協力会社をメーカーの倉庫に派遣して、商品を確保するなどの取り組みがみられた。今後、大手小売業は、調達や物流面での事業継続に向けた取り組みを強化してくるものと予測している。 

中堅中小企業でも別地域の同業他社との連携や共同仕入れ会社の活用などにより、調達や物流面での対策を行うことは可能である。他社の事例を踏まえ、自社店舗の展開状況や調達構造、組織や人材など自社の状況に合わせて、店舗、本部のそれぞれが継続的に対策のレベルアップを図っていくことが望まれる。