第22回 自動車販売業の事業継続
PwC総合研究所合同会社/ 主任研究員

小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
2016/10/13
業種別BCPのあり方
PwC総合研究所合同会社/ 主任研究員
小山 和博
外食業、会計事務所勤務を経て、(株)インターリスク総研にて 2007 ~ 2017年の間、事業継続、危機管理、労働安全衛生、事故防止、組織文化に関するコンサルティングに従事。2017 年よりPwC総合研究所に参画し、引き続き同分野の調査研究、研修、コンサルティングを行っている。
経済産業省の商業動態統計速報によれば、2015 年の小売業全体の売上高は140 兆6660 億円であった。そのうち、全体の12%にあたる16 兆7790 億円を自動車販売業が占めている。また、自動車販売業の業界団体である一般社団法人日本自動車販売協会連合会の2015 年12月時点での調査によれば、自動車販売業1302 社が1 万6075 事業所を保有しており、その従業員数は25 万人を超える。このように、わが国の社会における自動車販売業の存在感は大きい。
編集部注:「リスク対策.com」本誌2016年7月25日号(Vol.56)掲載の連載を、Web記事として再掲したものです。(2016年10月13日)
現在、日本における一世帯あたりの乗用車保有数は1.069 台であり、統計によれば一世帯あたりの保有台数が1 を切るのは、東京・神奈川・京都・大阪・兵庫の5 都府県にすぎない。消費者が自動車保有から離れているという記事をメディア上で目にすることがあるが、このようにしてみると、乗用車は大半の地域に住む国民にとって必需品であるといえる。
今回は、このような生活必需品である乗用車の提供を通じて、国民生活の基礎を支える自動車販売業の事業継続を考える。
事業継続の観点から考えると、自動車販売業には主に2 つの特徴がある。
1)自動車販売業とお客さまの関係は長いものになる
小売業が販売する商品は、2 種類に分かれる。一つは使用期間が短く、費用も比較的安い最寄り品であり、食料、生活雑貨などが代表例である。もう一つは使用期間が通常1年以上と長く、費用も高額になる買回り品であり、自動車販売業が販売する乗用車はこの買回り品(耐久消費財)の代表例である。
一般財団法人自動車検査登録情報協会の調査によれば、2015 年3月末現在の乗用車の平均使用年数は12.38 年である。この間、乗用車は2 年に1回(新車は3 年)、必要な点検整備を受け、自動車検査の登録をすることが義務付けられており、車検登録なしでは国内で自動車を運行することはできない。この仕組みを通じて自動車の安全性が担保されている。
自動車販売業は、乗用車を販売する小売業としての側面に加えて、このような長期にわたる使用にあたって必要とされる整備や点検を消費者に提供するサービス業としての側面を併せ持つ産業である。自動車販売業の各店では、運輸局の認証や指定を受けた工場が併設されていることが多く、販売後も定期的な整備や点検などをアフターサービスとして提供している。
この整備や点検は、お客さまのカーライフを金融面でサポートするクレジット・保険などとあわせて自動車販売業の重要な収益の柱であり、自動車販売業は、これらのサービスによる収益により、経営の安定化を図っている。このようなサービスを通じ、お客さまと自動車販売業は長期にわたる関係を築くことになるのが一つの特徴である。
業種別BCPのあり方の他の記事
おすすめ記事
津波による壊滅的被害から10年
宮城県名取市で、津波により工場が壊滅的な被害に遭いながらも、被災1週間後から事業を再開させた廃油リサイクル業者のオイルプラントナトリを訪ねた。同社は、東日本大震災の直前2011年1月にBCPを策定した。津波被害は想定していなかったものの、工場にいた武田洋一社長と星野豊常務の適切な指示により全員が即座に避難し、一人も犠牲者を出さなかった。震災から約1週間後には自社の復旧作業に取り掛かり、あらかじめ決めていたBCPに基づき優先業務を復旧させた。現在のBCPへの取り組みを星野常務に聞いた。
2021/01/21
台湾をめぐる米中の紛争リスクが高まる
米国のシンクタンクCouncil on Foreign Relations(CFR)は、2021年に世界中で潜在的な紛争が起こる可能性を予測する最新の報告書を公表した。報告書は、台湾問題における米国と中国の深刻な危機を、世界の潜在的な紛争の最高レベルとして初めて特定した。
2021/01/20
これからの国土づくり 「構想力」と「創意工夫」で
政府の復興構想会議のメンバーとして東北の被災地を訪ね、地域の再生や強靭な国土づくりに多くの提言を行った東京大学名誉教授の御厨貴氏は当時、これからの日本の行方を「戦後が終わり、災後が始まる」と表現しました。あれから10年、社会はどう変わったのか。いつか再び起こる巨大地震をめぐり、政治・行政システムや技術環境、市民の生活や仕事はどう進歩したのか。これまでを振り返ってもらいながら、現在の課題、今後の展望を語ってもらいました。
2021/01/14