できないことずくめ

ようやくモーターが届いたのですが、現場に持って行こうにも、道路ががれきでいっぱいで持って行けないんです。ブルドーザーを運転できる人はいないし、関連企業の方々は現場から避難しろという指示が出されていたので頼めない。そもそもクレーンが使える人がいないので、届いたモーターを現場に下ろせない、ようやく下ろしたら、今度はそれを持って行けない。ようやく現場まで持ち込んだら、今度はケーブルがつなげないなど、もうできないことずくめでした。
とにかく、このモーターを設置できたので、炉心の露出まであと2時間というところで冷却機能が回復し、一挙に圧力を下げることができたのです。中央制御室のスタッフが打ち水のように容器に水をまくなど温度や圧力を下げるといった工夫をしてくれて、18時間ほどの時間を稼いでくれたことも大きかったです。
ここで学んだ教訓はいっぱいあるのですが、当然ですが、電気がないときの設備として大型の予備ケーブルとか予備の電源車、あるいは予備のモーターというものを用意しておかなくてはいけないということ。それから、止める、冷やす、閉じ込めるという作業について、これまでは関連企業さんと一体になって仕事をやるということを言ってきたのですが、実は、東京電力はお金と工程管理をして、作業は全部、関連企業に任せていたということになります。それではいけなくて、やはり最低限のことは自分たちでできるようにしなくてはいけないということです。これは第一も第二も同じです。モーターの取り替え、ケーブルの接続、あるいはがれきの撤去など、最低限のことは自分たちでできるようにしようということで、事故後、訓練を積み重ねています。
あとは設備についても、動いているものを止めて点検するのではなく、動いたままの状況で様子を見て点検していくという技術も必要だと思い、知識を共有しています。

ハードとソフトによるレジリエンス

原子力発電所は、すでに西日本では再稼働が始まっていますが、柏崎では、今、防波堤を造る、電源を何重にも確保するといったハード的な対策とともに、人間力を高めるための訓練を日々繰り返し行っています。ハードと人間が両方そろっていないとレジリエンスは成り立ちません。10メートルの津波が来ると言われていて11メートルの防潮堤を作ったというのでは、絶対パンクしない車を造ったので運転しなさいと言っているのと同じ。そんな車を造っても、運転し心地も悪いし、経済的でもないし、むしろ、それが本当に機能しているとは誰も信じないと思います。パンクしたときにもスペアタイヤを持っていて、取り換えの工具もしっかり持っていて、自分で交換できるようになる。これができる人が初めて運転していいということで、免許証をもらえるんだと思います。
原子力発電所も同じだと思います。この車のパンクに当たるところが何かというのは、今回本当に痛い目に遭ってよく分かりました。止める、冷やす、閉じ込めるというところが何で壊れるか分からないけど、壊れたときにこうするんだということができることが必要だということをやっています。そのためのスペアタイヤに当たるもの、工具に当たるものも持って、スキルも磨く。これをしっかりやっていくというのが、私の考えているレジリエンスです。
マニュアルをいくら整備しても駄目で、たくさんのソリューションを用意しておいて、普段からそれが使える技能を持っておく。あとは、そのときの壊れ方を判断しながらさまざまなツールやソリューションを使って復旧させなくていけません。現場はその指示に従い邁進(まいしん)するということが大事なんだと思います。それでも駄目なときのためには、社会に与える影響を緩和するために、放射性物質が極力出ないように、あるいは出たとしても、大きな影響にならないような設備を入れるという多重防御が、われわれがやらなくちゃならないことで、今はしっかりこうした対策を徹底しています。
(2018年11月8日に行われた一般社団法人レジリエンス協会の定例会より)

(続く)

第1回 ハーバードで取り上げられたリーダーシップ
第2回 現場の安全を守る

(2018年11月8日に行われた一般社団法人レジリエンス協会の定例会 講演より)