組織向けの渡航リスク管理の指針となる「ISO31030:2021トラベルリスクマネジメント」が2021年9月に発行された。リスク対策.comでは、同規格の作成にあたって医療・セキュリティの面から専門的な知識を提供したインターナショナルSOSセキュリティディレクターの黒木康正氏を講師に招き、セミナーを開催した。以下、講演内容を抜粋して、紹介する。

【講演概要】

ISO31030:2021(トラベルリスクマネジメント)はISO31000のリスクマネジメントの系列企画です。いわゆるガイダンス企画と呼ばれるもので、実施しなくてはいけない要求事項が書かれているわけではなく、実施することが望ましい推奨事項が記載されています。言い換えれば、業務関連の渡航リスク管理における国際的なベンチマークともなる参考書的な位置づけです。ISO9001などのような要求事項が書かれた規格ではないので第三者認証もありません。ただし、このガイドラインに則って渡航のリスク管理に取り組んでいるということを利害関係者に、今後第三者意見書などとして公示することは可能となります。

適用対象としましては、従業員に対して安全配慮義務を負う業務関連の渡航を行う組織でいかなる組織も対象となります。当然、企業も当てはまりますし、NPOやNGO、あるいは学校などの教育関連の組織も該当します。

ISO31030の制定のねらいは、渡航にまつわるリスクを真剣に受け止め、十分に投資を行い、効果的に管理する文化を醸成するということです。

期待される効果は、安全配慮義務の効果的・組織的な履行が可能となること、経営陣のコミットメントに訴求できること、経済的・法的リスクの軽減ができる可能性が出てくること、高リスク地域への渡航が可能になること、などです。特に、経営陣のコミットメントと説明責任に関しては、何度も繰り返し表記されており、トップマネジメントの重要さが強調されています。逆の見方をすれば、今後海外で事件などに従業員が巻き込まれ裁判になったような場合、いわゆる単独唯一の論拠として安全配慮義務について議論される可能性もあるかもしれません。

結果として、組織の評判と信頼性が向上し、競争力、離職率、人材獲得面でのポジティブな効果をもたらす可能性も期待できます。また、渡航する従業員にとっては当然、安心感が増すでしょうし、最終的には、組織として業務関連の渡航に関するリスク管理を効果的・効率的な実行能力の証明となり、将来的に保険料の低減につながるかもしれません。国内では難しいかもしれませんが、海外ではこうした動きも出始めているという話も耳にします。

規格の章立ては、①組織と背景の理解、②トラベルリスクマネジメントと実行、③渡航リスクの評価、④渡航リスク対策、⑤コミュニケーションと協議、⑥プログラムモニタリング及びレビュー、⑦記録作成及び報告、となっています。