2019/03/19
講演録

先人たちの知恵を生かす
一方、私は30年前にここで仕事をしていたときのことを思い出していました。私の上司は、その当時、毎日ドライブのように発電所内の巡視ばかりして「どこそこには井戸があって、そこから水を取っていたんだ」とか「川から伏流水というくみ方で町の中にパイプライン引いてやっていたんだ」とか、あるいは「昔の電気はこうやって取っていたんだ」とか、そんな話ばかりをしていたんですね。そんな話を聞かされては、「俺は仕事をやりにきたんだ」と思っていたのですが、こうした知識が本当に役に立ちました。
「あのときに伏流水というのがあったんだから、ここからのパイプラインが残っているはずじゃないか。そこをちょっと調べろ」という指示をして行かせたら、本当にあったんです。ただし、水を入れろと言って入れさせたら、パイプラインが津波でやられて穴だらけで、水が途中吹き出してしまい使い物になりませんでした。ところが、ここはやっぱり昔の人の知恵というか、年配の方が、「自転車を壊していいかい?」と言ってきたので、「いいですよ、何でも壊してくださいよ」と言ったら、流木を削って、そこに栓をして、自転車のチューブをぐるぐる巻いて直してくれました。こんな知恵を使いながら水を復旧させています。
最初に4000トンあった水はどんどん減っていきましたが、こうして水源を確保したことで、電源車でモーターを回しながら、パイプラインを使って水が送れるようになりました。しかし電源車というのは便利なようで不便です。2時間から3時間に一回油を入れないと動かないんですね。電源車を10台持っていって作業をしていたのですが、福島第一が爆発した後は、その作業を延々と放射線の環境下でやってもらうことは無理だと思ったので、次に、東北電力さんの管内に入って東北電力の電柱から電気を取ってきてくれという指示をしています。「そんなことできるわけじゃないですか。東北電力ですよ、ここは」と言われましたが、配電の支援に来てくれた東京のスタッフが本社の配電担当に言って東北電力に連絡してくれ、折衝した結果、OKを出してもらいました。本当に「東電(トウデン)ならぬ盗電」です。これができたので、ずっと水をキープできるようになったというのも非常に大きなところです。
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/07/29
-
-
-
「想定外」を乗り越える力コカ・コーラ ボトラーズジャパンが挑む、危機管理の再構築
コカ・コーラ社製品の製造、販売、自動販売機のオペレーションなどを手掛ける、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社は、2024年の能登半島地震を機に、危機管理体制の再強化に乗り出している。直接的な被害は免れたものの、系列他社の被災や支援要請の集中を通じて、情報伝達や意思決定、業務の優先順位といった多くの課題が顕在化した。同社は今、グローバル基準の危機対応フレーム「IMCR」の再徹底を軸に、全社一丸の再構築に踏み出している。
2025/07/21
-
-
-
-
ランサムウェアの脅威、地域新聞を直撃
地域新聞「長野日報」を発行する長野日報社(長野県諏訪市、村上智仙代表取締役社長)は、2023年12月にランサムウェアに感染した。ウイルスは紙面作成システム用のサーバーとそのネットワークに含まれるパソコンに拡大。当初より「金銭的な取引」には応じず、全面的な復旧まで2カ月を要した。ページを半減するなど特別体制でなんとか新聞の発行は維持できたが、被害額は数千万に上った。
2025/07/10
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/07/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方