2019/03/19
講演録

2011年3月11日の東日本大震災で、福島第一原子力発電所と同様に地震・津波の被害を受けながらも、炉心損傷に至ることなく全号機の冷温停止を達成した福島第二原子力発電所。現場指揮に当たったのが、当時所長だった増田尚宏氏だ(現日本原燃株式会社 社長)。危機的な状況の中でも落ち着いて的確に現場をまとめあげたリーダーシップは海外でも評価され、ハーバード・ビジネス・スクールの授業でも取り上げられているという。その増田氏が当時を振り返った。
原子力発電所の敷地内での事故対応については、何度も訓練もしているのですが、資機材を調達するのに不可欠な敷地外の道路が寸断されいたのは、われわれにとって非常に大きなハードルとなりました。通信も全く機能しません。NTTの基地局なども地震の被害により、一斉に使えなくなったんです。携帯電話も、基地局はバッテリーがあるうちは良かったんですけど、そのバッテリーが枯渇した後は全然使えなくなりました。通信手段はほとんど何もなかったです。衛星電話があるのですが、古い衛星電話なので、外に出て衛星に向かって話さないとうまく通じないんですね。「衛星はどこにあるか、そんなこと知るか」というところからスタートです。
次は、福島第一の水素爆発で、外へすら出られなくなりました。外へ出られないので、衛星電話は使えない。衛星電話の使い方を本当にしっかり考えなくてはいけないと思いました。今は、原子力発電所は衛星電話のアンテナを屋外に出し、端末を緊急対策室の中に入れるということを全国的にやっています。
被害を拡大させない
こんな状況の中で総延長9キロメートルにおよぶケーブルを引いているわけですが、実は3号機が生き残っていたので、皆そこから引きたいと言っていたのですが、ここから電気を取ることで、3号機も壊してしまったら元も子もないなと思ったので、絶対に3号機は触るなという指示をして仕事を進めさせました。朝の6時ぐらいにスタートして、ケーブルを引き終えたのが夜11時です。
地元の水も使えなくなりました。原子力発電所は冷却のために水が不可欠なのですが、東京とのテレビ会議で「4000トンの水を送ってください」と頼んだら、東京から送られてきたのは4000リットルでした。飲料水の感覚なんです。「4000トンだよ」と怒ったら、「悪いけど4000トンの水を送るには船が必要で、油を運んだ船だったらあるけど、それに水入れて送っていいか?」と言うので、「ふざけるな。油を入れていたようなタンクに入った水なんか、何が起こるか分からない」と断り、東京に頼らず、自分たちで何とかするしかない、という覚悟をしたことを覚えています。
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