2016/07/01
噴火リスクにどうそなえる?
■数百年噴火していない火山も危険
2000年3月の有珠山噴火では、地震活動が活発化したことから、直前に噴火を予測する緊急火山情報が発表され、これを受け周辺住民の避難が行われたことから一人の犠牲者も出さなかった。2009年2月の浅間山の噴火では、噴火警戒レベルを上げ、これにより道路規制などが行われ噴火被害を最小限に抑えることができ、いずれのケースでも噴火予知は機能した。 しかし、火山の観測ができているからといって、火山噴火予知がすでに確立しているというわけではない。 火山噴火予知連絡会の藤井敏嗣会長は「観測体制が整っている火山なら直前予測することが可能だが、以47外の火山については今のところ監視されておらず、こうした数百年噴火していない火山が突然噴くこともある」と警笛を鳴らす。また、噴火が予測できたとしても、規模や、いつまで継続するか、どう推移するかなどを予知することは極めて難しいとする。
■専門家の不足と監視体制の課題
観測にあたる専門家が不足していることも課題だ。 「気象庁には約140名の職員が、火山と名のつくポジションにいるが、大部分は火山学に関しては非専門家。アメリカは、USGS(米地質調査所)に火山学の専門家が集中し、さらに世界各国の噴火現場に職員を派遣し、トレーニングを積ませ、ノウハウも蓄積している。日本が火山大国ながら気象庁に火山学の専門家が乏しい状況で監視観測を続けているのは大きな欠点。火山学の専門家集団を気象庁に取り込むべき」(藤井会長)。 監視調査の体制にも問題がある。・日本は、気象庁が主に噴火の前兆となる地震を計測し、国土地理院がGPSで地殻変動を計測し、各大学が、それぞれの研究テーマに基づいて火山を選び計測をするなど系統的になっていないのだ。 一方、海外では、アメリカはUSGS(米地質調査所)イタリアならINGV、(伊地球物理-火山学研究所)、フィリピンはPHIVOLCS(フィリピン地震火山研究所)インドネシアはPVMBG、(地震地質災害軽減センター)と国家機関に一元化されている。
地震の調査・研究については日本でも地震本部(地震調査研究推進本部)という政府機関が存在し、複数の省庁をとりまとめているのに対して、火山についてはそのような政府機関は存在しない。藤井会長は日本の火山に関する観測・調査体制も見直す必要があると説く。 政府の中央防災会議には、地震や津波、大規模水害に関する専門調査会が設けられているが、火山噴火は含まれていない。今後、系統的な火山の観測・調査を実現するには、中央防災会議に火山専門調査会を設け、省庁横断的に取り組める体制のあり方を検討し、新しい体制を整える必要がある。
■遅れている自治体の取り組み
自治体の取り組みも遅れている。火山ハザードマップが作成されている火山は、気象庁指定の110の活火山のうち40にとどまる。火山防災のために監視観測体制が必要な火山として常・時観測されている47火山について見ると、火山でハザードマップが作成36されていることになるが、残る11火山については、まだ具体的な取り組みが始まっていない(右表)さらに、。地域防災計画の作成現況をみると、活火山がある26都道府県のうちで火山災害対策編を作成しているのは9都県にとどまり、他は一般災害対策編、風水害対策編で記載し、火山災害対策をとりあげて特に記載していないのも4県あるという(宇都宮大学中村教授調べ)。

専門家や資金のない自治体が主体でこうしたハザードマップをつくることは難しい。藤井会長は「ハザードマップをつくるにも基礎となる噴火履歴データが不十分では作りようがない。国が中心となり、それぞれの火山がどれくらいの頻度で、どのような噴火をしたか、ボーリングなどを活用して調べる必要がある」と話している。

噴火リスクにどうそなえる?の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方