■基本的な要素と作り方の手順
しかし唐突に「緊急対応プラン」などという言葉が飛び出すと、ちょっと引いてしまう人がいるかもしれません。「えっ、BCPだけでも手一杯なのにERPも!?」という声が聞こえてきそうです。安心してください。BCPとERPは別物ではないし、みなさんの負担を増やすようなことでもありません。

BCPを四輪の車に例えるなら、危機発生の直後から始まるERPは車の前輪、復旧は後輪に相当します。ERPの部分がなければ、四輪なのに後輪だけで走ろう(事業を回復させよう)とするようなもの。また、危機の種類や規模によってはERPだけで終息できる場合もあるので、ERPそのものは一つの独立したプランとみなすことはできますが、BCPはERPなくしては成り立ちません。

火災や地震をはじめとする各種の災害には、それぞれ固有の特徴がありますから、ERPについても災害別の対応手順が必要です。しかしそれら一つひとつをゼロから考える必要はありません。ERPには、どの災害対応にも共通する次の3つの要素があります。これらを軸に検討し、手順を組み立てればよいのです。

・危機を察知する
・危機を知らせる
・危機に対処する

いずれも単純明快な要素ではありますが、ちょっと考えてみてください。みなさんの会社では、この初歩的なことに対する心構えや準備、そしていざというとき、従業員一人ひとりがこの3つに沿って速やかに行動する自信はあるでしょうか。今まで避難訓練一つやったことのない組織などでは、危機に直面したときどんな状況に陥るかは、推して知るべしです。

次に、この3つの要素が、災害の種類を問わず、すべての緊急時のアクションに共通することを確認してみましょう。

■災害別ERPの基本要素はどれも同じ
まず火災。火災の第一発見者は身の安全を確保しつつ、ただちに周囲(119番通報も含む)へ火災発生を知らせます。小さな火災なら初期消火を行うでしょう。担当部署は速やかに火災状況を判断し、社員を避難させます。そしてこの後、大事に至らなければ中断した業務の再開に向けた準備に入ります。地震の場合もほぼ似たよう流れになりますが、余震や津波への対処を考慮しなくてはなりません。

台風や集中豪雨などの場合はどうでしょうか。気象情報などであらかじめ危機は予想できますから、ここでの「危機を知らせる」は、公共交通機関の運行停止などを想定して社員に早めの帰宅を呼びかけることを意味します。また浸水被害の可能性を考慮し、安全策をとるよう促すこともあるでしょう。これは、土のうを積む、重要な書類やノートパソコンなどを上階に退避するなどの「危機に対処する」行動として実行されます。

危機のシチュエーションや行動のタイミングはさまざまですが、この3つの要素は、情報漏えい事故にもパンデミックにも、風評被害にも、つまりはすべての危機に共通するものです。考えてみれば、これは私たち人間に限ったことではなく、どんな種類の動物や昆虫にだって3つの要素は当てはまることが分かるでしょう。危機対応の知恵というのは、太古の昔から厳しい自然を生き延びてきた他の生き物の方が、ずっと先輩であると言ってよいのかもしれません。

ERPに即した緊急行動が功を奏すれば、そのあとの業務の継続や復旧に向けた活動に移るのも難しくはありません。「出だしが肝心」、「結果はあとからついてくる」。BCP全体の良し悪しを左右するERPにも、この言葉はピッタリ当てはまります。

(了)