遠隔勤務・出張中のコミュニケーション対策の動向

なお本調査では、遠隔勤務(remote-based staff)や出張中におけるコミュニケーションに関する調査項目も含まれていて興味深い。図2は「どのような方法で、緊急事態コミュニケーション計画の効果的な運用が確実に行われるようにしているのか?」という設問に対する回答結果である(複数回答)。回答の中で緊急連絡に関連する項目に着目すると、まず「外国に行く従業員に関しては、信頼できる連絡先情報を確実に取得する」がトップとなっており、「緊急事態におけるコミュニケーションを含む総合的な出張リスクマネジメント計画がある」が第3位、「緊急連絡システムを持っている」が第4位などとなっている。

写真を拡大 図 2. どのような方法で、緊急事態コミュニケーション計画の効果的な運用が確実に行われるようにしているのか?(複数回答) (出典: BCI Emergency Communications Report 2020)

このような調査項目が含まれている背景として、出張先におけるリスクが増加しているという状況がある。本報告書では図2の設問の前に、「出張先にリスクの高い国が含まれていると考えているか?」という設問があるが、この設問に対して「Yes」と回答した組織は2019年版の36%から2020年版では46.9%に増加している。このような状況を踏まえて、緊急連絡システムや緊急事態コミュニケーション計画が海外出張中の従業員の安全対策という観点でも重要な位置を占めているのであろう。

本稿執筆時点では新型コロナウィルスの感染拡大が重大な関心事となっているが、このような状況においても、海外出張者や駐在者の方々を含む従業員と確実に連絡をとり、正確な情報を共有することが非常に重要である。読者の皆様の組織において、緊急事態におけるコミュニケーションのとり方に関する検討やレビューを実施する際に、本報告書を参考にしてみてはいかがだろうか。


■ 報告書本文の入手先(PDF 60 ページ/約 4.4 MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-emergency-communications-report-2020.html

注 1) BCIとはThe Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/


注 2) これまで紹介させていただいた過去の調査報告書は次のとおりである。なお 2017 年版までは報告書の発表時期が毎年 12 月だったが、その次から年をまたいで 1 月の発表となったため、「2018 年版」が発表されず、2017 年版の次が 2019 年版となっている。

2016年版:2017年6月27日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/3158
2017年版:2017年12月28日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/4475
2019年版:2019年1月29日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/14819


注 3) 英語では emergency notification system もしくは mass notification system などと呼ばれ、事故や災害などが発生したことを、多数の関係者にメールやSMSなどで自動通報するシステムの総称。機能としては日本で普及している安否確認システムに近いが、安否確認よりも、緊急事態が発生したことを多数の従業員に知らせたり、緊急対応チームを招集したりすることを主目的として開発されている(最近は安否確認の機能が追加されているものも多い)。


注 4) SaaS とは「Software as a Service」の略で、ソフトウェアを購入して自社のコンピューターにインストールするのではなく、提供元のサーバーで稼働しているソフトウェアを利用するようになっている形態をいう。最近は「クラウドで提供されるサービス」というような呼び方をされることが多い。
 

(了)