2020/01/28
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!
遠隔勤務・出張中のコミュニケーション対策の動向
なお本調査では、遠隔勤務(remote-based staff)や出張中におけるコミュニケーションに関する調査項目も含まれていて興味深い。図2は「どのような方法で、緊急事態コミュニケーション計画の効果的な運用が確実に行われるようにしているのか?」という設問に対する回答結果である(複数回答)。回答の中で緊急連絡に関連する項目に着目すると、まず「外国に行く従業員に関しては、信頼できる連絡先情報を確実に取得する」がトップとなっており、「緊急事態におけるコミュニケーションを含む総合的な出張リスクマネジメント計画がある」が第3位、「緊急連絡システムを持っている」が第4位などとなっている。

このような調査項目が含まれている背景として、出張先におけるリスクが増加しているという状況がある。本報告書では図2の設問の前に、「出張先にリスクの高い国が含まれていると考えているか?」という設問があるが、この設問に対して「Yes」と回答した組織は2019年版の36%から2020年版では46.9%に増加している。このような状況を踏まえて、緊急連絡システムや緊急事態コミュニケーション計画が海外出張中の従業員の安全対策という観点でも重要な位置を占めているのであろう。
本稿執筆時点では新型コロナウィルスの感染拡大が重大な関心事となっているが、このような状況においても、海外出張者や駐在者の方々を含む従業員と確実に連絡をとり、正確な情報を共有することが非常に重要である。読者の皆様の組織において、緊急事態におけるコミュニケーションのとり方に関する検討やレビューを実施する際に、本報告書を参考にしてみてはいかがだろうか。
■ 報告書本文の入手先(PDF 60 ページ/約 4.4 MB)
https://www.thebci.org/resource/bci-emergency-communications-report-2020.html
注 1) BCIとはThe Business Continuity Institute の略で、BCMの普及啓発を推進している国際的な非営利団体。1994年に設立され、英国を本拠地として、世界100カ国以上に9000名以上の会員を擁する。https://www.thebci.org/
注 2) これまで紹介させていただいた過去の調査報告書は次のとおりである。なお 2017 年版までは報告書の発表時期が毎年 12 月だったが、その次から年をまたいで 1 月の発表となったため、「2018 年版」が発表されず、2017 年版の次が 2019 年版となっている。
2016年版:2017年6月27日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/3158)
2017年版:2017年12月28日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/4475)
2019年版:2019年1月29日掲載分(https://www.risktaisaku.com/articles/-/14819)
注 3) 英語では emergency notification system もしくは mass notification system などと呼ばれ、事故や災害などが発生したことを、多数の関係者にメールやSMSなどで自動通報するシステムの総称。機能としては日本で普及している安否確認システムに近いが、安否確認よりも、緊急事態が発生したことを多数の従業員に知らせたり、緊急対応チームを招集したりすることを主目的として開発されている(最近は安否確認の機能が追加されているものも多い)。
注 4) SaaS とは「Software as a Service」の略で、ソフトウェアを購入して自社のコンピューターにインストールするのではなく、提供元のサーバーで稼働しているソフトウェアを利用するようになっている形態をいう。最近は「クラウドで提供されるサービス」というような呼び方をされることが多い。
(了)
- keyword
- 世界のレジリエンス調査研究ナナメ読み
海外のレジリエンス調査研究ナナメ読み!の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方