第87回:緊急事態下でのコミュニケーションに関する実態調査(2020年版)
BCI Emergency Communications Report 2020
合同会社 Office SRC/
代表
田代 邦幸
田代 邦幸
自動車メーカー、半導体製造装置メーカー勤務を経て、2005年より(株)インターリスク総研、(株)サイエンスクラフト、ミネルヴァベリタス(株)にて事業継続マネジメント(BCM)や災害対策などに関するコンサルティングに従事した後、独立して2020年に合同会社Office SRCを設立。引き続き同分野のコンサルティングに従事する傍ら、The Business Continuity Institute(BCI)日本支部事務局としての活動などを通して、BCMの普及啓発にも積極的に取り組んでいる。国際危機管理学会(TIEMS)日本支部理事。一般社団法人レジリエンス協会幹事(組織レジリエンス研究会座長)。環境経営学会幹事(企業の気候変動に対する「適応」研究委員会メンバー)。政府会計学会会員(社会リスク研究部会メンバー)。
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緊急事態コミュニケーション計画に変化
BCMの専門家や実務者による非営利団体BCI(注1)は、緊急事態におけるコミュニケーションに関する実態調査の2020年版「Emergency Communications Report 2020」を2020年1月に発表した。この調査は2014年から毎年行われており、本連載で紹介させていただくのも今回で4回目となる(注2)。
調査は主にBCI会員を対象として、Webサイトを用いたアンケートで行われている。回答総数のうち半数が欧州からの回答であり、次いで南北米大陸からが 19.4%で、アジアからの回答は10.2%となっている。
まず単純な経年比較として、緊急連絡システム(注3)を導入したと回答した組織の割合が、2019年版の59%から2020年版では67%へと若干増えている。ちなみに導入されているシステムのうち65.9%がSaaS(注4)とのことである。また「緊急事態コミュニケーション計画が発動されるまでの平均的な所要時間」が「5 分以内」と回答した組織は、2019年版では22%だったのに対して2020年版では 32.4% に増加している。さらに「何らかの事象が発生した後に、トップマネジメントに第一報を入れるまでの平均的な所要時間」が「1時間以内」だと回答した組織は、2019年版では67%であったが2020年版では75.9%となっている。したがって緊急事態におけるコミュニケーションの環境整備は、この1年で着実に進歩してきていると言えるだろう。
一方でコミュニケーションの質に関しては変化が見られる。図1は「緊急事態における連絡や危機管理において最も重要かつ困難なものは何か?」という設問に対する回答結果である(複数回答)。2019年版から回答方法や選択肢が変わっているので数字を単純比較できないが、前回トップだった「スタッフとコミュニケーションをとること」を上回って「正確な情報を集め、情報の有効性を確認して、共有すること」がトップとなったことは注目に値するであろう。この点については報告書本文において、「緊急事態コミュニケーション計画の効果的な運用を阻害するのはテクノロジーよりもむしろ人である」と強調されている。